機関誌『専門店』ハイライト

ホーム>機関誌『専門店』ハイライト

店人いま279

「街の本屋さん」として地域の文化・情報を発信し街の魅力アップを創出する

 長﨑健一 氏 長崎書店(日専連熊本)聞き手 宇田 弘

mise_01.JPG熊本の中心市街地は老舗も多く、ファッション性豊かなお店と混在し、古くて新しい街として魅力を発信し、多くの来街者を誘引しています。今回取材した長崎書店は開業明治22年。そしてそのルーツである創業明治7年の長崎次郎書店の建物は、国の登録有形文化財に指定されています。

書店業界の経営は厳しさを増し、特に街なかの中小の書店が消えつつある中、「街の本屋さん」としてさまざまな楽しみを提供し、熊本の文化・地域情報を発信して、多くの支持を得ています。また、街の中心部には長崎書店のある「上通商店街」と「下通商店街」があり、そこが核となり、またいい意味でライバル商店街として、活気あふれる賑わいを創出しています。


 

県内最古級の老舗書店

●HPを拝見しましたら、明治7年に創業されたお店をリニューアルし、再オープンされたとありますが、そのあたりのことからお聞かせ願いますか。 mise_02.JPG
長﨑
 長崎次郎書店といいまして、中心商店街から少し離れた住宅街にあり、私の先祖筋にあたる長﨑次郎という方が明治7年に本の取り扱いをはじめました。その後、明治22年に上通に支店を出しました。そして昭和30年代に、それぞれの店の経営を分離することとなり、この上通の店は私で4代目になります。

経営分離後もそれぞれ営業を続けておりましたが、親戚が経営する長崎次郎書店は諸事情から平成25年に店を閉める決断をされました。

しかし、前店主のご家族の方から、建物が国の登録有形文化財(建物は大正13年に再建)に指定されているので、建物を生かしながら、書店として存続できないかと相談をされました。私としても、この長崎書店のルーツでもありますので、暖簾を受け継いで、私ども株式会社長崎書店が経営を引き継がせていただくことになりました。

●長崎次郎書店には、喫茶室が併設されているそうですね。
mise_03.JPG mise_04.JPG長﨑
 2階は事務所として使っていましたが、改装して喫茶室にして地域の皆さまにご利用いただいています。最近オープンしたばかりですが、結構賑わっていて、路面電車のカーブしていくところが見える窓際が人気のようです。

長崎次郎書店の近くには、県内でも有名な産婦人科病院がありますので、絵本や育児書を充実させ、国産の木を使った安全・安心なおもちゃなども置いて、ギフトにも対応しています。

また、長崎次郎書店は市街地から少し離れているため、お客さまは地元の方が中心になりますので、親しみのある、使い勝手のいい本屋として実用書や雑誌、そして絵本や木のおもちゃなどを充実させています。

mise_05.JPG●お店の広さはどれくらいですか。
長﨑
 長崎次郎書店は40坪で、ここ中心部の長崎書店は100坪です。

●上通の長崎書店の特徴を教えていただけますか。
長﨑 
このあたりはお店や企業も多く、広域から集客できますので都会的要素も取り入れ、芸術・ファッション・人文・文芸などのジャンルを充実させています。

●本の仕入れやディスプレイは、どうされているのですか。
長﨑
 雑誌、コミック、文芸、ファッションなど、ジャンルごとに担当者を分けて、仕入れからディスプレイまで任せています。

街の本屋として

mise_06.JPG mise_07.JPG●東京でも街の本屋さんがなくなってきて、駅に隣接した本屋さんや都市部にある大型チェーン書店、ネット書店に押されて、街によっては本屋さんが1軒もないという状況も出てきました。
長﨑
 中小規模書店の経営は厳しくなってきました。年間500店もの書店が消え、この20年で1万店くらいの書店がなくなってしまいました。

●でも、最近は図書館が見直されて、利用される方が増えているようです。本離れが進んでいるといわれていますが、実際どうですか。
長﨑
 本が売れているかといえば、トレンドとしては毎年3~4%ダウンしています。でも、おっしゃるように図書館を愛用する方や、小・中・高校では朝の読書活動で本は読まれていますので、需要はあります。

新刊は年間8万点も出版されています。その中で、担当者が限られたスペースの中で、試行錯誤して品揃えをしています。今後は書店の役割が見直されてくると思いますので、専門の技能・職能を持ったスタッフを育て、生活者のニーズに寄り添っていくことが重要だと思っています。

●この店の斜め向かいに大きな本屋さんがありますが、ライバルですね。
長﨑
 長崎次郎書店が創業140年、長崎書店が125年になりますが、あちらも古くて創業90年以上の老舗書店です。 

●あちらは、売場面積が広いですね。
長﨑
 うちの3倍はあります。うちも参考書を置いていましたが、向かいの本屋の2階に大きな学習コーナーができましたので、参考書などはあちらに任せて、うちはライフデザインやファッション・芸術などのジャンルを重視しています。ライバルですがお互いに特徴を出し合って、一緒にこの街の本屋としてお客さまの利便性を追求し、エリアとしての集客を図っていく必要性を感じています。

少し離れたところには、大型チェーン書店もありますので、頑張らないといけません。また、うちのスタッフには販売士検定や読書アドバイザーの資格取得を奨励して、職能向上に努めています。

●読書アドバイザーについて教えていただけますか。
長﨑
 出版流通や印刷・製本の仕組みなど、本に関連する広範な知識を身に付け、本の読み聞かせの実演なども習得します。年に4回のスクーリングとレポートの提出などがあります。

●資格取得は、働く方の励みになりますね。
長﨑
 自信と自覚が生まれてきます。書店のスタッフは、専門職だと私は思っています。

●働いている方は、若い方が多いですね。スタッフさんは、何名いらっしゃいますか。
長﨑
 私は36歳です。入社して今年で13年になりますが、自然と私と同じ年代のスタッフが中心になってきました。スタッフは、2店舗で16名、うちパートさんが9名です。

●店内は、どのようなレイアウトになっているのでしょうか。
長﨑
 入り口に雑誌・週刊誌のラックなどを置いて、「街の本屋さんです、気軽にお入りください」というメッセージを出しています。また、地域文化の拠点でありたいという思いから、店内に入ってすぐ左に芸術書を、右側には郷土本を置いています。つづいて文芸書、人文学書などを配置し、文化性の高い書籍を前に持ってきています。

こういう配置が自店の方向性を示す一つのメッセージになっています。

店の一番奥にはスピリチュアルのコーナーがありますが、リピーター客が多く、まとめ買いされる方もいます。うちのスタッフもほとんど読破し、興味を持っていただくためにPOPでしっかりアピールしています。

雑誌は定期性のある商品なので奥に配置して、必ず書籍コーナーを回遊していくようにして、1冊でも多く手に取っていただけるように工夫しています。また、地元で開催されるイベントや各種情報もレジ脇にコーナーを配置して、街の本屋さんとして情報発信しています。

●本が大量にある中で選びやすくするために、ジャンル分けが難しくありませんか。
長﨑
 レイアウトとジャンル分けが重要です。他店では、本の高さを揃えてレイアウトしていますが、うちは判型の大きさではなくジャンル分けを重視していますので、棚がでこぼこしていますが、お客さまが選びやすいよう配置しています。

共同仕入れの活用

●売れ筋の見極めが重要ですね。
長﨑
 新聞や雑誌に紹介されている本は、大きな販売力のある大型チェーン書店に、出版社や取次会社も多く流すので、中小規模の本屋には回ってこないこともあります。そうならないように、うちは「ネット21」という全国数十の中小書店が出資し合ってつくった協業会社に加盟して、いわゆる共同仕入れを行なっています。

また、共通のPOSを使用していますので、お互いにデータを活用し合って、仕入れに生かしています。

●本の仕入れルートについて、教えていただけますか。
長﨑
 うちの場合は、8割以上をトーハンという大きな取次会社を使って仕入れています。それと、日専連本部近くの神田神保町近辺に特徴ある小さな卸がたくさんありますが、大きな問屋さんになくても、在庫があることがあるので、そことも取引し、機動性の高い仕入れを目ざしています。

●出版会社から直接仕入れることはないのですか。
長﨑
 数は多くありませんが、大手取次店を通さない魅力的な出版物もありますので、アンテナを張って、自店の客層と合致するようなら積極的に直接取引を行なっています。

●ネット販売も行なってらっしゃいますね。
長﨑
 仕入先である大手取次会社が構築したシステムを活用していますが、店頭販売がほとんどですね。

ネットの世界では、アマゾンの独り勝ちです。リアルな書店空間ならではの付加価値をいかに高められるかに注力しています。

多彩なイベントを開催

mise_08.JPGイベントなども行なっているとお聞きしますが。
長﨑
 作家さんのトークショーやサイン会、子ども向けの本の読み聞かせ、詩の朗読会などを、月に1~2回行なうようにしています。

●どこでやられるのですか。
長﨑
 この店の3階です。昔は倉庫として使っていたところでしたが、ホールとして改築し、ミニライブや演劇などにも活用しています。

店内にもギャラリースペースがあり、たまたま今日はやっていませんが、写真展や絵画展などを行なっています。先日、アクセサリー展を開催したところ、1000円くらいのものが600個も売れました。そのほか、地元のタレント、アナウンサー、市長など、熊本のさまざまな分野で活躍されている方々に声掛けして本を紹介していただき、そのコメントをまとめて冊子にし、熊本の書店ならではのオリジナル・フェアを開催しました。その結果、1カ月間に約2000冊を売り上げることができました。

●紹介いただく「人」が重要なのでしょうか。
長﨑
 熊本でブランド力のある方々にお願いしています。また、そこからのご縁でイベントにご協力いただいた方もいらっしゃいます。

●この冊子は、どのようなところで手に入るのですか。
長﨑
 フェア期間中、カフェや映画館、また冊子に協力いただいた方々に十数冊差し上げて、知り合いの方に配布していただきました。

●たくさんの方のコメントが掲載されていますが、作るのは大変だったでしょうね。
長﨑
 結構大変でした。メールや電話、手紙などで連絡を取り合ってコメントを集めて作り上げました。

皆さんノーギャラにもかかわらず、快くお引き受けいただけたことが何よりうれしかったです。

●賞状や盾がたくさんありますね。「ディスプレイ社長特別賞」と書かれた盾がありますが、説明いただけますか。
長﨑
 出版社のディスプレイコンクールがありまして、表彰されたものです。

また、こちらは「しろくまのパンツ」という絵本を、うちが1番売ったということで表彰されました。この賞状は「頑張る中小企業300社」で、経済産業大臣から受けたものです。

商店街大学を開校

●商店街での活動は、何かされていますか。
長﨑
 上通商店街の活性化ということで、各お店を紹介する冊子『かみとおり』を作り、個店の魅力を発信しています。地域商店街活性化事業の補助を使って作りました。自店もそうですが、商店街の各個店が今後も残っていくために、商店街全体の活性化が肝要ではないかと思っています。

私は「上通スタンダート大学」という商店街大学の運営を担当しており、商店街の方は無料で参加できる勉強会を開催しています。

●講師はどのような方ですか。
長﨑 
店主の方が講師になることもありますし、地元のアナウンサーによる話し方講座や英会話塾の先生による接客英会話、また東京からブランディングの専門家に来ていただくこともあります。

●毎回、何名くらい参加されるのですか。
長﨑
 講座によって違ってきますが、25名から70名くらいですね。

●どのくらいの頻度で開催しているのですか。
長﨑
 月に1回の開催で、1年間のスケジュールを立てて行っています。

●テーマや講師の選定は、どのようにされているのですか。
長﨑
 商店街の若手が中心となり、プロジェクトチームを組んで、そこで決めています。数年後に熊本駅前が再開発されて商業施設ができますので、お互いが刺激し合って中心商店街としての魅力をアップさせていかなくてはと考えています。

●日専連活動はいかがですか。
長﨑
 私は5年前に父から会社を受け継ぐと同時に入会させていただきました。全国の同志と知り合う機会を与えていただき、大変勉強になります。

●ぜひ日専連の組織を活用し、また活動に参加いただき盛り上げてください。
 最後に、社長として、また商店街の役員として実現させたいことなどございましたらお話しいただけますか。
長﨑
 従業員が生き生きと働くことができる、やりがいのある職場をつくっていきたいですね。そのことは、お客さまの対応にもいい形で表れてきます。

また、長崎書店があったので、本が好きになったとか、書店業界、出版業界で働きたいと思っていただけたらうれしいですね。

それと、長崎次郎書店のある場所は、ここの商店街のように人通りは多くないので、その地域に住みたい、そこで商売をやりたいという方が増えるよう、ささやかながら、私どもの書店と喫茶室がよい影響力を発揮できるよう頑張っていきたいと思っています。

●そのことが実現されますことを願っております。本日はありがとうございました。