機関誌『専門店』ハイライト

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2015年 新春特別対談

培ってきた資産の棚卸を行い その再活用を試みる

日本小売業協会会長 土方 清
日専連理事長 山口 哲男


taidan_01.JPG2015年の新春対談は、日本小売業協会の土方 清会長(サークルKサンクス相談役)にお願いし、皇居を望む東京商工会議所「東商スカイルーム」で行われました。

日本小売業協会は商工会議所を中心として、日本百貨店協会、日本チェーンストア協会など、小売業に関連する各種団体が発起人となり、1978年に設立されました。日専連も加盟しており、日専連理事長は歴代副会長に就任しています。

消費税に始まり消費税に終わった1年


山口 新年あけましておめでとうございます。土方会長にはお忙しい中、新春対談にお越しいただき感謝申し上げます。また、日本小売業協会ではお世話になっております。
 
さて、昨年末は衆議院解散・選挙ということであわただしく1年を終えました。今年は未年です。穏やかな年であることを期待したいところです。

早速で恐縮ですが、まず昨年を振り返ってのご感想などをお聞かせ願いますでしょうか。

taidan_02.JPG土方 昨年は、消費税に始まり、消費税で終わったような印象が強いですね。昨年4月に消費税が8%になりましたが、2月ごろから駆け込み需要が高額品から始まって、身近な生活用品に広がり、間際には食料品へと大きく膨らんでまいりました。そして4月に8%になってからは、反動減が起こりました。多くのエコノミストは、その反動減は夏ごろには収まると見ていたようですが、私は夏以降も反動減は続くものと見ていました。

7月、8月の天候不順も重なり、9月以降も一部の都心百貨店を除き、結局は回復の兆しは見えませんでした。

アベノミクスの効果は、資産効果で利益を得た方もいれば、また訪日旅行者の増加により購買が伸びて、首都圏の百貨店を中心に明るい兆しが見えましたが、小売業全体では前年対比マイナスという結果となり、第3の矢である成長戦略の恩恵を享受できたとは言えない状況です。特に、地方の小売業をはじめとした中小企業においては、まったくと言っていいほどその恩恵は得られませんでした。

私はコンビニエンスストアの出身ですが、コンビニもトータルで見るとマイナスです。その原因は消費税アップだけではなく、第1の矢、第2の矢の金融緩和・財政出動による、極端な円安が影響していると思っています。輸出産業は恩恵を受けますが、われわれ小売業は典型的な内需型ですので、輸入品が値上がれば直接打撃を受けます。

また、デフレからの脱却もできていませんから、価格転嫁がしにくい状況にもあります。小売業にとっては円安の恩恵は、まったくありません。

11月には安倍首相は衆議院を解散し、自公政権は安泰で、消費税10%への増税は1年半延期されることになりました。税率アップについて私個人の意見としては、国の借金を子や孫に押し付けることは避けたいので、消費税アップは仕方のないことだと思っています。公約どおり、プライマリーバランスを2020年までに達成していただき、社会保障と税の一体改革を推進し、将来に対する安心を築いていただきたいと思っています。

山口 昨年の駆け込み需要は、売れるときに売っておきたいという気持ちが、小売業全体にあったと思います。一方、地域や業種によっては、駆け込み需要の恩恵にあずかれないところもあり、反動減が追い打ちをかけ、ひどい状況に置かれたお店もあります。土方会長がおっしゃるとおり、結果としては苦しい販売を余儀なくされ、特に地方経済がさらに元気を失った感があります。

消費税を10%にアップして財源を確保することは理解していますが、中小の小売業者が2017年の春を越すことができるよう、私たちの思いが政治家の方たちに伝わり、良い方向に向かう年であってほしいと願っています。

私は仙台出身ですが、東北は東日本大震災で被災し、多くの方々から支援をいただき、その地域の人たちは再建するために一生懸命頑張っています。しかし、今も住むところが決まらず、新しいスタートが切れない方も多くいらっしゃいます。また、その後も各地で地震や天変地異で被災した方がいらっしゃいます。地域や状況によって違いますが、そういう方たちに私たち小売商業者は、何ができるかということに明け暮れた1年でもありました。

課題は山積していますが、この1年は地域の経済を守りながら、小売商業者としての役割に応え、応援をしていきたいと思っています。全国組織というものは、往々にして平均的な話になりがちですが、それぞれの地域・実情に合った支援を小まめに行なっていくことが命題だと肝に銘じながら実行していきたいと思っています。

しかし残念なことですが、特に地方の商店街などでよく目にするシャッター通りと言われている状況は、何とかしたいと考えても、中心部から郊外に拠点が移っている流れをなかなか止められません。

中心部の疲弊が取りざたされて、いろいろな対策を講じるも、その部分は政治に頼らざるを得ないところもあります。政府には、中小小売商業者の状況を理解いただき、実りある施策を講じていただきたいところです。また、消費税アップにしても、国会議員の定数是正をはじめ、行財政改革をしっかり行ったうえで実行すべきです。

高齢化の課題をチャンスに変える


土方 まず、小売業に対する国の支援が、ほかの産業に比べて薄いということが言えます。比較的都市部はアベノミクスの恩恵を受けて恵まれているといえますが、地方はまったくその恩恵を受けていません。私は支援の仕方として、地域振興券を発行して地方の活性化を図るべきだと考えます。また、103万円の壁と言われるパートの所得・基礎控除を150万円まで上げ、定率減税の実施もすべきだと思っています。それを補う財源は、山口理事長が言われた財政改革により捻出できるはずです。

また、わたしども小売業界は、産業別では最も多い1000万人を超える雇用を創出しています。さらに、小売業は国民の生活を支えるライフラインでもあります。ライフラインは電気やガス、水道だけではありません。食べ物や、衣類、家電なども重要なライフラインであり、それを支えているのは小売業です。

政府には、「小売業者の現実を見てください」と言うべきですが、小売業は業界ごとに団体があるので個別対応となっています。政府与党や、霞が関と話をするときには、窓口を一本化した方が話がしやすいと思いますので、業界がまとまる努力をすべきです。また、お願いだけではなく、小売業者ができることは、自ら行動を起こすべきです。

今、少子高齢化が加速しています。少子化は別として、高齢化は問題というよりチャンスだと思っています。いろいろ問題を並べても何の解決にもなりません。そこで問題をチャンスに置き換えて考えると、おのずと解決方法が見つかります。高齢化している地域は、買物弱者が多くいらっしゃるので、そこに何らかの対策を講じればチャンスに変わります。

小売業に限りませんが、厳しい状況に置かれると、どうしても守りの姿勢に入ってしまいがちです。社会構造が変化している中では、環境が変わってくるのは当たり前です。IT革命が進化し、オムニチャネル化してきています。中小の小売業者もその活用を積極的に行なうべきです。

山口 土方会長のおっしゃったことは、私の考えていたこととフィットして共感いたします。小売商業というのは、当然のことながら地域から認知され、必要とされなくては成り立ちません。ただ地域で頑張るんだということだけではダメで、地域生活者がどのようなことを求めているかを正しく認識したうえで、それに応えていかなければ、その地域から必要とされなくなってしまいます。 taidan_03.JPG

たとえば高齢化の問題でも、高齢者の方々を商業者としてどのように支えていくかを考えなければいけません。これからは、さらに地域生活者と小売商業者の関係を深め、地域小売商業者として何ができるか、何をすべきかを見直す時代だと思っています。

そんな中で、街角にあるコンビニが地域との関係を深めることに努力をしています。これからは、地域生活者を支えている店同士が連携をして、地域を守っていかなくてはならないと思っています。

街の八百屋さんなどがなくなって、そこをカバーしてくれているのが街のコンビニです。大きいお店は、そこで商売ができないと判断したら、すぐに撤退してしまいますが、小さいお店はその地域を守ってくれています。

先ほど、土方会長が言われたオムニチャネルは大事ですし、対応していくべきだと思います。自分のお店の強みと役割は何かを認識したうえで、オムニチャネル化を図っていくことは大事なことだと思います。また、自身の強みを発揮するツールとして、またネットワークを広げるために活用すべきです。既存のものに満足するのではなく、チャレンジが必要ですね。

また土方会長は、「地域を動かして、国を動かす」とおっしゃいました。商業者は、各地域で重要な役割を果たしております。商工会議所をはじめ、市や県とも重要な関係を築き、地域の祭りですとか、さまざまな行事を支えているのは多くが商業者です。そこを認識し、アピールして、しっかりと商業者が求めていることを市や県、そして国に対してアクションを起こして、大きな流れをつくっていくべきだと私も思います。

また最近、残念に思うところがあるのですが、私は書店業界の方ともお付き合いがありますが、薄利多売で商売をされている中で、万引きによる被害により、やむなく店を閉めざるを得ない状況も出てきています。このことは書店に限らず、人としてのあり方として残念で仕方ありません。

培ってきた資産を一度棚卸してみる


taidan_04.JPG土方 地方の商店街や商業者の方々とお話をする機会がありますが、それぞれのお店には、これまでご商売をされてきた歴史と資産があります。その培ってきた資産を一度棚卸されて、資産の活用を見直してみたらよいのではないかと思います。

自分の持っている資産というのは、自分ではその価値がわからないこともありますから、それをいろいろな角度から見て、またはほかの人に見つけてもらってもいいと思います。そして、それを活用すべきです。また、地域のコミュニティーとして祭りや行事を支えてこられたのも、重要な資産です。そういう意味では、先ほど山口理事長が「街のコンビニ」の話をされましたが、まだ多くのコンビニは、地域に根ざしているとは言えません。

日専連さんの各お店は、地域の資産を持っておられるので、引き出しの中を一度全部出して、活用方法をさまざまな角度から見直してみてはいかがでしょうか。ご自身の物差しで見ると、古くて使えないと思っているものでも、ほかの人の目から見たら宝物だったり、活用できる資産がたくさんあると思います。

また万引きの問題も深刻で、年間の損失金額は莫大なものです。その損失は、すべて小売業者が背負っています。私は「万引き」というネーミングを変えるべきだと思います。「脱法ハーブ」から「危険ドラッグ」に名を変えて、大きなインパクトを与えて効果を上げています。「万引き」という言葉では罪悪感が薄いと思いますので、変える方向で運動をしているところです。

最近は高齢者の万引きが青少年の万引きを上回り、問題になっています。生活困窮者が増えているということもあるかもしれません。世間は、青少年の万引きには厳しい意見を持っておられるようですが、高齢者の万引きには同情の声もあります。これは否定しなければなりません。

ある大学で万引きについて研究が行われ、高齢者の方に「いらっしゃいませ!」とか「お荷物を運びましょうか」と声をかける実証実験を行ったところ、10%以上も万引きが減ったそうです。また、売上げも増えたという結果が出ました。お客さまに気持ちのいいお買い物をしていただくと、このような結果が出るんですね。万引きの最大の処方箋は接客にあるということが実証されました。

少子化、雇用、格差問題など、課題は積み上がっていくばかりですが、この1年はできることから一つずつ切り崩して、問題を解決していきたいと思っております。そして、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてインバウンドツーリズムを増やし、好印象を持っていただきリピーターになっていただくために、小売業界の環境を具体的に整備していくスタートの年としたいですね。

山口 日専連もあと2年で80周年を迎えます。私たちは何のために商いをしているのか、また周りからどう見られているのかといった原点を見つめ直し、将来について考えていきたいと思っております。

日専連には会社組織もあり、クレジット事業などの経済事業を行っているところも多くございますが、もとは協同組合から生み出されたものですので、地域経済の中で役に立つ存在であるべきだと考えております。

小売業界におきましては、厳しい時代が続くと思いますが、土方会長がおっしゃったように、ピンチをチャンスとして受け止めて、日本小売業協会を筆頭に業界団体がより連携し合いながら、消費者に必要とされる小売商業者であり続けていきたいと思っております。

土方会長との対談では、とても素晴らしいご示唆をいただきました。厚く御礼申し上げます。