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今後半年の個人消費の見通し⑦

~先送りされた消費増税と株高と原油安~


株式会社第一生命経済研究所 経済調査部 エコノミスト 星野 卓也


先送りとなった"消費税10%"

2014年11月、目まぐるしい勢いで政治が動いた。きっかけとなったのは、2014年7月~9月期のGDP統計だ。

消費税率の10%引き上げの可否を判断する際の材料とされていた統計だが、これが政府の見込みを大きく下回るマイナス成長に沈んだ。これを受けて、安倍首相は消費税率を2015年10月に8%から10%に引き上げることは困難と判断し、消費増税の先送りを決定する。

さらに、この判断の"信を問う"として、衆議院の解散総選挙に踏み切った。

消費税率の引き上げは予定通り実施されるとの見方が大勢であっただけに、市場はこれを大きなサプライズで受け止めた。

そして、12月14日に投開票された衆議院選挙は、政府・与党の大勝となった。与党(自民+公明)は、326議席を獲得、解散前勢力を維持した。

政府はこの選挙を通じて、「消費増税の先送り」、および安倍政権の経済政策である「アベノミクス」に対する"お墨付き"を得た格好となった。

本稿では、足もとの消費動向を確認したのち、この消費増税先送りを踏まえたうえで、今後の個人消費の見通しを展望する。

消費税率引き上げ後の"想定外"の個人消費落ち込み

まず、足もとの消費の動きを確認することからはじめたい。個人消費は、消費税率8%引き上げ直前の2014年1月~3月期に、駆け込み需要の発生を背景に前期比+2.2%と高い伸びを記録したが、翌4月~6月期にはその反動減によって同-5.1%と大幅減に転じた。

そして、のちの7月~9月期には、同+0.4%と小幅増加となる(資料1)。これをどう見るかだが、消費増税後の個人消費は"回復力が非常に弱い"と評価せざるを得ないだろう。 kozin 1.jpg

決定的であったのは、7月~9月期のリバウンドの弱さだ。事前の政府・民間エコノミストの予想では、7月~9月期の個人消費は、4月~6月期の反動減によって実勢から下振れした消費が、実勢に回帰する力が働き、高めの伸びになるとの見方が多かった。

kozin 2.jpgしかし、7月~9月期のGDP統計からは、夏場の消費のリバウンドが極めて軽微に留まったこと、そして消費の実勢そのものが弱いことが示唆されている(資料2)。

項目別に見ると、自動車、家電などを含む耐久財の弱さが目立つ(2014年1月~3月期:前期比+12.8%→4月~6月期:同-18.9%、7月~9月期:同-4.4%)。

単価の高いこれらの製品は、消費税率引き上げによる負担増額が大きい。そのため、駆け込み需要(およびその反動減)が膨らんだほか、物価上昇による実質的な所得減の影響も大きくなったと考えられる。サービスについても、落ち込み幅こそ耐久財より小さいが、
消費増税前から一段水準を切り下げる形になっており、7月~9月期の段階でも回復の兆候が見えないままの状態にある(1月~3月期:同+0.2%→4月~6月期:同-0.9%→7月~9月期:同-0.2%)。

財・サービスの区別を問わず、消費は全般的に落ち込んでいるのが実態である。

消費増税の影響は広範に

次に、消費増税後の消費動向をより子細に見てみよう。

資料3は、小売業の主要三業態である「百貨店」「チェー kozin 3 (1).jpgンストア(スーパーマーケット)」「コンビニエンスストア」の売上高を見たものだ。

増税直前の3月の駆け込み需要は、販売単価の高い百貨店で大きくなっており、反動減もまた百貨店が大きい。ただ、足もとではいずれの業態でも前年比(店舗調整後)-1%~-2%での推移となっている。増税による負担増が、業態の如何を問わず、小売業販売額を下押ししていることが明確になっている。

kozin 4.jpg資料4では、サービス業のうち外食売上高と旅行会社の総取扱高をプロットしている。足もとの外食売上高は前年比マイナスに沈んでおり、増税負担が消費を下押ししている様子が見てとれる。

一方で、旅行総取扱高は前年比で2%~3%のプラス圏で推移している。

牽引しているのは日本人の海外旅行だが、「取扱額」ではなく「人数」で見ると、海外への出国日本人数は、8月前年比-3.0%、9月:同-2.1%、10月:同-5.3%とマイナス圏での推移が続いている。

消費の実勢が強まっているというより、昨今の円安進行によるコストプッシュ的な側面が強いと判断できるだろう。

個人消費は全般的に冴えない推移が続いており、牽引役不在の状態に陥っていると言える。

消費者の心理面にも弱

また、消費者心理の面にも弱さが見られる。

内閣府の「消費動向調査」によれば、消費者心理を示す消費者態度指数は、2013年9月にピークをつけたのち、消費増税に対する懸念を背景に、低下基調が続いた。

2014年6・7月と改善が続き、消費者心理の好転が見られたものの、その後は10月まで3カ月連続の低下、二番底の様相を呈している(資料5)。 kozin 5.jpg

消費者マインド悪化の主因は、物価高にあると考えられる。

内閣府の「景気ウォッチャー調査」(11月分)によれば、「消費税増税、円安、物価高、天候不順による不安材料と、突然の総選挙という政治不安定がますます消費低迷につながっており、消費者は節約意識が高くなり、購買を控えている(東北=通信会社)」「景況感の悪化のほか、円安による物価の上昇などが、家計を圧迫している(近畿=スーパー)」などのように、4月以降の消費税率引き上げに加え、円安の川下価格への波及が、家計の生活必需品の価格を上昇させていることを示唆するコメントが目立つようになってきている。

2014年度は、昨年度の好景気を背景に賃上げ気運が盛り上がり、個人消費を支えることが期待されていた。しかし実際には、それを上回る物価上昇を受け、家計の実質所得(名目所得を物価で除した値)は減少し、これを受けて消費者のマインドも冷え込むこととなった。

加えて、夏場には各地で発生した台風や大雨といった天候不順が重なったことも、個人消費の低迷に拍車をかけることとなった。

株高・原油安が強い追い風に

それでは、今後も個人消費は低迷が続くのか。

結論から述べると、筆者はそうはならないと予測している。

その根拠となるのが、①金融市場が日本経済にプラス方向の動きを見せていること、②労働需給の逼迫した状況が続く中で、2015年度にはさらなる賃金上昇が見込める、という2点である。

日本銀行は昨年10月の金融政策決定会合において、これまでの「量的・質的金融緩和」の拡大を決定した。

これに伴って、金融市場では円安、株高が大きく進んだ。日経平均株価は、追加緩和前まで長らく破れなかった16000円の壁を突き抜け、170000円を上回る水準まで上昇した(2014年12月15日時点)。

株高で思い出されるのは、2013年の安倍政権発足後の株高によって、高額商品の売れ行きが急増したことだ。

株高による資産効果(家計が所有する資産価格の上昇によって、消費が押し上げられる効果)の恩恵を色濃く受けたのが高級品だ。

2013年の百貨店販売における「美術・宝飾・貴金属」の売上げは、前年比+15.5%と大きく増加している。今回の株価上昇も、先行きの個人消費に追い風になることが見込まれる。

一方で、円安は「家計」の視点から考えると、生活必需品の価格上昇を通じて、消費を抑制する方向に働きかける。実際に、食料品などの価格は輸入品を中心に値上げされる傾向にあり、家計の負担は増加している。しかし、今後この負担増を緩和する要因もでてきた。それが、原油価格の急落である。

原油価格の下落によって、まず値下がりするものがガソリンである。レギュラーガソリン価格は、7月に169.9円とピークをつけた後、直近(12月8日時点の調査)では、155.3円と低下している(全国平均、資源エネルギー庁「全国給油所価格調査」)。

特に、地方では都市部に比べて自動車の利用率が高く、相対的にガソリン安の影響を受けやすい。家計負担の緩和効果も相対的に大きくなるだろう。

また、原油安の恩恵はガソリンだけに止まらない。暖房用の灯油や電気代・ガス代にも今後は波及し、家計負担を和らげる見込みだ。

名目賃金は着実に上向いている

kozin 6a.jpg kozin 6b.jpgさらに、消費回復の原動力となるものが、賃金上昇だ。

2014年の1人当たり名目賃金(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)が、10月まで8カ月連続の前年比プラスとなり、増加基調を明確にしている点は、注目に値する。

これは、①円安や公共事業の増加に伴って、2013年の企業収益が明らかに増加したこと、②政府が政労使会議を通じて行った「賃上げ要請」に経済界が呼応したことが背景にある。

ただ、賃金上昇の要因はそれだけではない。大きな流れとして、勤労者の賃金は、これから上がりやすくなることが予想される。その背景にあるものが、労働需給の逼迫が続いていることだ。

昨今の人手不足の中で、人材流出抑制・新規雇用確保のため、賃金を上げることで対応する企業が増えている。今後も、労働力人口が減少していく中で、人手不足の状態は続きやすい。これまでよりも賃金は上がりやすくなっていくことになる。

こうした中で、2015年度は賃上げの動きがさらに強まると予想している。

まず、労働組合の集合体である連合が、今年の春闘で「2%以上」のベースアップを目標とすることを決めている(前回は「1%以上」)。加えて、政府側も政労使会議の開催を通じて、経済界にさらなる賃上げを要請する予定だ。

企業サイドとしても、労働需給の逼迫度合いが強まる中で、人材流出防止などの観点から、賃上げに踏み切らざるを得ない局面にシフトしていくことになる。

2015年度は、賃上げの流れが加速する公算が大きいだろう。

以上のように2015年度の個人消費には、①株高・原油安、②賃金上昇の加速という2つの追い風が吹くことになる。消費税率の再引き上げが見送られたことも、目先の個人消費にはプラス要因だ。先行きの個人消費は、徐々に回復感を強めていく可能性が高い。

"地方は悪い"は本当か

なお、消費に都市・地方間の格差が生じているとの報道があるが、一概に「都市は良い、地方は悪い」と決め付けることは避けるべきだ。内閣府の「地域別・消費総合指数」を見ると、「沖縄」などの消費が比較的堅調な推移を見せているのに対して、東京を含む「南関東」などは、2013年平均水準を下回る推移が続いており、消費に勢いがないことがわかる(資料7)。 kozin 7.jpg

背景には何があるのだろうか。2013年度、円安進展や公共投資の積み増しなどを通じて、製造業や建設業の業績が大いに潤った。こうした業種は、2014年度の賞与を増加させており、これが国内の賃金水準の底上げに繋がっている。

実際に公表されている厚生労働省「夏季賞与の支給状況」を見ると、夏のボーナスは前年から+3.1%の増加となっている。中でも著しい伸びとなっている業種が、製造業(同+10.5%)や建設業(同+10.0%)だ。

そして、製造業や建設業の構成比率は、都市部よりもむしろ地方部で高い。地方がアベノミクスの恩恵を受けやすい経済構造にあったことが、賃金、ひいては個人消費の趨勢の差に繋がっている側面があろう。

内閣府の「地域経済報告」における景況判断を見ても、「南関東」は"おおむね横ばい"と「北海道」などの"持ち直しの動きが見られる"よりも一段低い判断がなされている(資料8)。

kozin 8.jpg一概に都市部の消費が強い、地方部が弱い、と早合点することは禁物だ。

「新・財政健全化目標」が来夏までに発表へ

安倍首相は、11月の増税先送り・衆院解散会見の際、もう1つの宣言を行っている。それは財政健全化目標の堅持だ。政府は、国および地方のプライマリーバランス(利払い費や公債金を除いたベースの財政収支)を、2020年度までに黒字化する目標を掲げている。

しかし、昨年7月時点の政府試算によれば、2015年10月の消費税率引き上げを前提とした場合でも、この目標の達成には遠く及ばない(10兆円超の赤字が残る)。

財政健全化目標を達成するためには、消費税率10%への引き上げに加えて、さらなる増税や社会保障給付の縮小といった、財政緊縮が必要になるという結論に、政府が達する可能性は高いといえるだろう。

安倍首相は、財政健全化計画を来夏までに公表するとしている。どういった改革が示されるかはまだ不透明な部分が多いものの、何らかの「痛みを伴う改革」が計画されることになる可能性は十分にある。家計負担を伴うものであれば、個人消費への影響も生じる。

来夏に政府が示す財政健全化計画は、個人消費の趨勢を見るうえでも注目度が高い。