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地域ビジネスの可能性を探る

新連載
地域ビジネスの可能性を探る

政府の小規模企業振興基本計画に関する一考察

明治大学 社会連携機構 客員准教授 岩瀧敏昭

はじめに

いろいろな地域の方にお会いして、少し打ち解けてくると、必ずと言っていいほど聞かされる言葉がある。それは「昔は、この町にもたくさんの人が住んでいて、この商店街にも人があふれていたんだが...それが今では...」「いくつかのお店は今も頑張っているけど、昔あった名店がなくなっているんだよね...」

それらの言葉は、往時を懐かしむ声でもあり、嘆きや行き場のない怒りとなって、「ここに大きな企業があったが移転してしまった」「顧客が車で郊外の大型店へ行くようになってしまった」など、その地域が置かれている環境の変化と、それを受け入れざるを得ない地域の境遇に触れることになる。

このような地域の人々の言葉の裏側に潜む、わが国全体の少子高齢化や過疎化、東京を中心とした大都市への一極集中などの根本的な問題は、国の重要政策であり、それを今に持ち出したところで、当該地域の問題の解決には結びつかない。

そんな中で、たとえば地域の人々が本当に求めている商店街とはどのようなものなのか。そこに存在すべき企業や商店はどうあるべきなのか。さらに掘り下げると、それらの企業や商店の活性化と地域全体の活性化を、どのように結び付けていくのかといったテーマを、真剣に話し合っていくと、あまりにも課題が多すぎて、何から手をつけるべきなのか悩むところである。

そんな思いを持ちながら、この10月に閣議決定された「小規模企業振興基本計画」の施策について、地域小規模企業と地域全体の活性化という観点から注目してみたい。

「小規模企業振興基本計画」について

すでにご存じの方も多いと思うが、政府は小規模企業を支援するための小規模企業振興基本法に基づく「小規模企業の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための小規模企業振興基本計画」を、この10月3日に閣議決定し発表した。

この内容としては、①需要を見据えた経営の促進、②新陳代謝の促進、③地域経済に資する事業活動の推進、④地域ぐるみで総力をあげた支援体制の整備。以上の4つの目標設定と、その実現に向けた、10の重点施策が実施されることになっている(概要参照)。

また、この基本計画の第1章の1の現状認識と基本的な考え方には、次のような内容が語られている。

「全国385万の中小企業、中でもその九割の334万を占める小規模企業は、地域の特色を生かした事業活動を行い、就業の機会を提供することにより、地元の需要に応え、雇用を担うなど、地域経済の安定と地域住民の生活の向上・交流の促進に寄与する極めて重要な存在である。
(~中略~)

一方、わが国は人口減少、高齢化、国内外の競争の激化、地域経済の低迷などの構造変化に直面しており、これらの構造変化は、地域の経済・雇用を支える小規模企業に大きな影響をもたらしている。

小規模企業は、そもそも資金や人材といった経営資源に大きな制約があることに加え、その商圏および取り扱う商品・サービスが限定されており、価格競争やリスク対応力が弱いため、構造変化の影響を受けやすい。加えて、小規模企業が抱える問題として、経営者の高齢化が進んでおり、後継者不足などが、経営の低迷や廃業に直結している。

その結果、2009年から2012年の3年間で、小規模企業の数は32万社、9パーセント減少しているのに対し、それより規模の大きい中小企業の数は3万社、5.6パーセントの減少にとどまるなど、中小企業の中でも小規模企業が、とりわけ厳しい立場に置かれていることは明らかである。

このまま小規模企業が減少していくと、地域の自立的で個性豊かな発展、国民生活の安定といった観点から、国民経済にとってとても大きな損失である。今こそ、小規模企業固有の課題の集中的な整理と確認を行ったうえで、小規模企業施策を抜本的に見直し、強化していくことが求められる」

筆者も、この考え方に基づき、国としての施策が進められ、成果が得られるよう期待していきたいと考えている。

これまでの経緯と成果への期待

筆者が期待をよせる背景は、1963年に制定された中小企業基本法が、中小企業を経済的弱者と位置づけ、その救済を行う精神に基づいた法律であったが、1999年に国は、中小企業は弱者ではなく、経済のダイナミズムを生む源泉ととらえ直し、活力ある中小企業を支援する内容に、法の大改正を行っていることである。

また、これを受けて小規模企業振興基本法が、小規模企業にフォーカスして支援するための法として制定され、経営支援や販路開拓、事業承継などにおいて、求められる人材や資金などの経営資源の供出をはじめ、小規模企業振興に向けて、具体的な検討が進められてきた。

今回の小規模企業振興基本計画が、いろいろな議論の経過をたどって出てきたものであり、個々の企業の業績向上を実現させ、とりわけ存在比率の高い小規模企業の振興に結び付くことを期待しているからである。

また、アベノミクスの3本の矢の1つである「成長戦略」に関連して、昨年6月に閣議決定された「日本再興戦略─Japan is Back─」の中に盛り込まれた「民間企業活力の復活」では、黒字の中小・小規模企業数を2020年までに、現在の70万社から140万社へ倍増する目標が掲げられている。これに関しても、国としてさまざまな施策が進められ、ぜひとも成果が得られることを望んでいる。

それほど、地域の状況は切迫したものなのである。

しかし、その一方で、これまでの国の施策の実態からみて、ともすると地域や小規模企業の抱えている、本当の課題やニーズとの乖離が生まれてきており、結果として不発に終わるのではないかと、危惧されている部分があるのも事実である。

その内容については、今後同計画に基づき、国としてのさまざまな施策や補助金、助成金などの制度運用が行われることから、引き続き、その動向を注視していくことにしたい。

地域社会の評価と自らの情報分析

ところで、今回発表された計画の中で、小規模企業の振興のための4つの目標の実現に向けて、小規模企業の振興に関する「10の重点施策」を実施することがうたわれているが、その1つ目に次のような内容が掲げられている。

「(重点施策一)ビジネスプランなどに基づく経営の促進」

小規模企業が売上げや利益を伸ばすためには、明確なビジョンに基づいた経営を行うことが重要である。

そのため、小規模企業自身が、マーケットや競合他社の分析などにより、自らの強み弱みを把握しつつ、潜在的顧客を探すこと、その上で地域全体の実情も踏まえたビジネスプランなどに基づく経営を促進することが肝要である。

商工会・商工会議所などの伴走型の支援により、このような明確なビジョンに基づいた経営を促進する。

伴走型支援に伴う金融支援も充実させつつ、小規模企業の売上げの増加や収益の改善などを図り、事業の持続的発展を促進していく。

これについて、筆者の拙い経験から考えを述べさせていただくと、地域や地元企業における成功事例や斬新なアイデアなどは、意外に地元の方ではなく、ほかの地域の方や、いわゆる「よそ者」と言われる方の方がよく知っており、評価しているといった場面に遭遇することがある。地域や地元の中小・小規模企業においては、ある意味で「灯台もと暗し」の状態なのかもしれない。

筆者が考えるに、前述のような国の施策が進められることも大切だが、一方で、地域社会の中で高く評価されることは、その地域に生きる中小・小規模企業の経営者が、自らの能力に自信を持つことにもつながると思われる。

この自信の復活こそが、本当は中小・小規模企業経営者に、今一番求められていることだと考えている。

実際、経営者が自信を持ったことで、従業員の意識も変わり、伸びている中小・小規模企業の事例は少なくない。今までの意識を変革し、自ら培ってきた能力やこれまでの実績・経験に自信を持つことが、次の事業推進意欲につながるはずである。

他方、事業が成功するためには、自らを知る必要がある。自らを知るとは、情報学的に言うと、「自らと他との差異を認識すること=情報」となるが、他との差異を認識して、自らの情報を得る。

その得た情報を客観的に分析し、その特徴をつかみ、その特徴を社会にアピールすることが、明確なビジョンに基づいた経営への第1歩ではないか、と考えている。

オットー・フォン・ビスマルクの言葉に「愚者は経験に学び 賢者は歴史に学ぶ」という言葉があるが、これは、自分の狭い範囲の経験に頼るのではなく、広く他者の経験や歴史の中から学ぶということと解されている。

この言葉の意を受けて考えるならば、単なる情報分析だけにとどまらず、過去、現在の人々の知恵や経験に学ぶ姿勢を併せ持つことも忘れてはならないだろう。

おわりに

前述の「10の重点施策」を改めて提示されると、地域の小規模企業としての活性化に向けて、何か斬新なアイデアやプランはないものかという思いに駆られる。

そこで筆者として、何らかのヒントを得る材料として、最近の経営学の分野で話題になっている1冊の著書を紹介したい。

それは神戸大学名誉教授の吉原英樹氏が、1988年に書かれ、すでに絶版となっていた『「バカな」と「なるほど」』(吉原英樹 著、PHP研究所)という本である。

本書は、一橋大学大学院教授の楠木健氏が、自身の研究過程で改めて本書のすごさに気付き、推奨して本年8月に復刻に至ったようだ。

きわめて簡略していえば、ここで取り上げている「バカな」とは、「経営における戦略の差別性」を表現している。

この差別性には、尊敬される差別性と軽蔑される差別性の2種類があり、経営戦略の差別性としては、後者の「軽蔑される差別性」の方が重要であることを本書は指摘している。

すなわち、他者から「そんなバカな」といわれるような業界の通念や慣行、さらには一般常識的な判断を打ち破る差別性の強い斬新な考え方が、成功のもととなるというのだ。

もう1つの「なるほど」は、「そんなバカな」といわれる戦略の中にある、合理性ないし論理性を表しており、当該の経営に携わる人から改めて説明を聞くと、なるほどと納得する要素をもっていることになる。

本書においては、この2つが経営成功の重要な要素であると掲げている。

また、それをわかりやすく、1988年当時の事例をもとに解説している。事例としては古いのだが、その紹介されている事例をもう少し抽象化して、その視点や考え方を抜き出して、捉え直してみると、今でも経営に携わる人には、検討に値する内容が多く含まれている。

すでに読まれている方も多いことと思われるが、改めて読み直してみることをお勧めしたい。


参考「小規模企業振興基本計画の概要」

 基本計画を実効あるものとして総合的に展開していくため、以下の措置を講じる。
・関係省庁、地方公共団体、支援機関等が、それぞれ4つの目標の達成状況を把握する。
・毎年度、講じた施策・講じようとする施策等について、年次報告(小規模企業白書)により、広く公表する。
・施策の効果を検証し、見直しを図るPDCAサイクルを構築し、5年間の計画期間において、毎年度実践していく。

4つの目標
1.需要を見据えた経営の促進:顔の見える信頼関係をより積極的に活用した需要の創造・掘り起こし
2.新陳代謝の促進:多様な人材・新たな人材の活用による事業の展開・創出
3.地域経済に資する事業活動の推進:地域のブランド化・にぎわいの創出
4.地域ぐるみで総力を挙げた支援体制の整備:事業者の課題を自らの課題と捉えた、きめ細かな対応

10の重点施策
1.需要を見据えた経営の促進
(1)ビジネスプラン等に基づく経営の促進
・明確なビジョンに基づいたビジネスプラン等に基づく経営を促進。
(2)需要開拓に向けた支援
・商談会・展示会・即売会開催、アンテナショップ等拠点の整備やネット販売などITの活用を促進し、国内外の需要の開拓を促進。
・小規模企業の政府調達参入を促進。
(3)新事業展開や高付加価値化の支援。
・需要を見据えた新たな商品・サービスの開発等、新たなアイデア・技術の事業化等の取り組みや、第2創業などの挑戦的な取り組みを促進。

2.新陳代謝の促進
(4)起業・創業支援
・産業競争力強化法に基づく創業支援体制を整備し、女性・若者・シニア等の起業・創業を促進。
・中長期的な観点から、起業・創業を応援する社会づくり、起業・創業に関する教育や先輩経営者の実例を学ぶ機会の提供。
(5)事業承継・円滑な事業廃止
・事業承継に関する制度の整備・活用、小規模企業と事業引継ぎを希望する者とのマッチングや人材育成を促進、新たな事業展開に挑戦する後継者への支援。
・小規模企業共済制度の整備・活用、経営者保証に関するガイドラインを踏まえた融資の促進、円滑な廃業・事業承継・再チャレンジに向けた環境整備。
(6)人材の確保・育成
・中小企業大学校やインターネット等を活用し、小規模企業経営者及び従業員の知識、技能、管理能力の向上を図る研修を推進。
・小規模企業の魅力発信、女性・若者・シニア等、多様な人材と小規模企業との相互的なマッチングに向けた環境整備。

3.地域活性化に資する事業活動の推進
(7)地域経済に波及効果のある事業の推進
・地域における魅力の面的・横断的な掘り起こし、創造及び地域内外への浸透、消費者ニーズも踏まえた地域全体の活性化。
(8)地域のコミュニティを支える事業の推進
・小規模企業に加え、行政機関(都道府県・市区町村)、商工会・商工会議所・中小企業団体中央会・商店街振興組合連合会等の既存の支援機関、認定支援機関、金融機関、農家、地場産業、旅館、NPO、医療機関、住民等が一体となり、地域全体で課題やニーズに対応し、コミュニティーを支えるような取り組みを実施。

4.地域ぐるみで総力を挙げた支援体制の整備
(9)支援体制の整備
①支援機関等
・支援機関等が支援目標の設定を行うことを推奨。支援機関全体のレベルアップ、各機関の緊密な連携を強化。
・高度で専門性の高い経営課題について、「よろず支援拠点」の知見を活用した支援及び独立行政法人中小企業基盤整備機構による、各拠点への統括・サポート等を通じた支援体制の補強。
②国・地方公共団体
・関係省庁が緊密に連携し、地方公共団体ともよく連携しながら、施策を効果的に展開。
・ミラサポ(未来企業の応援サイト)の「施策マップ」に関係省庁及び都道府県・市区町村の施策情報を共有。
(10)手続きの簡素化・施策情報の提供
・小規模企業の施策活用を促進するため、必要な手続き(申請や確定検査における書類等)の簡素化・合理化を推進。
・インターネット(動画含む)、マスメディア、地方公共団体及び支援機関の広報等の手法を活用し、わかりやすく積極的に情報を提供。