機関誌『専門店』ハイライト
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店人いま 258
最近は、お正月でも着物を着る人が少なくなってきた。その昔は、学校の授業参観に母親が着物で来ることも珍しくなかった。また、結婚式でも若い女性は振袖を着ていたが、今はドレスに変わってしまった。
しかし、日本文化の象徴としての着物はなくなることはないと確信する。着物は美しく、そして粋であるからだ。また、着物は〝高価〟で〝敷居が高い〟という印象がある。でも、この取材を終えてから〝敷居が高くてもいい〟と思えてきた。もっと多くの方に着物を着てほしいと思う反面、その美しい着物を着る人は、着物を愛し、高い敷居を越えた方だけでもいいのではないかと...。
取材中に盛岡青年会の菅原会長のご家族が来店され、菅原会長のお母さまの着物をご自身の娘さん(小1)にお直しされていた。お子さんが「私が主役よ!」と喜ぶ顔をご家族が、そしてお店の方が優しく包み込むシーンがほのぼのとしていた。ご家族の記憶として一生残るシーンとなるだろう。
現代の呉服屋として こだわりを大事にし 人に役立つ店でありたい
500円で着付け教室
●創業は何年でしょうか。
高屋 創業は大正13年です。今年で87年目になります。来年は88年の米寿になりますので、何か企画をしたいと思っています。
●盛岡は着物の産地などはあるのですか。
高屋 特にありません。創業当時は小間物屋というか、日常で使用する足袋や下着など、当時は着物も日常品として扱われていたので販売していました。今は呉服、婦人服、和装小物などを販売しています。盛岡市内に3店舗あります。和風小物を中心とした「小袖」という小さいお店が若い人に人気があります。
●浴衣や和風小物は、和の文化として最近見直されてきましたが、着物まではなかなか行き着きませんね。
高屋 着物のマーケットは、残念ながら縮小が続いていますね。
●でも逆に言えば、今残っているお店は、セレクトされたお店ということになりますね。
高屋 呉服屋の減少は、当然ながら着物を着なくなったことが一番の要因です。私どもも、着物を着て楽しんでいただく場づくりをことあるごとに企画、提供していますが時間がかかりますね。最近、催していることの1つに、盛岡の老舗酒造メーカーとタイアップして、日本酒と着物を見直してもらおうと、着物でいらしていただく洒落た会食の場を提供しています。30代から40代の方が中心で、楽しんでいただいています。
●そのような「コト」の提供は重要ですね。
高屋 買っていただいたら終わりでなく、そこからの「場・コト」の提供が大事ですね。
●最近は若い方に浴衣が定着してきましたね。
高屋 盛岡には〝さんさ踊り〟という祭りがありますので、浴衣の需要は大変盛り上がっています。
●浴衣は気軽に着ることができますが、そこから着物に移っていくための敷居が高く、なかなか難しいところですね。
高屋 そうかもしれませんね。でも、浴衣を着ていた方が、もっとチャレンジしてみようと、着物に興味を持たれて購入する方もいらっしゃいます。そういう方は本格的なものではなく、価格を抑えたものや古着から入る方もいらっしゃいます。
●昔は子どもの授業参観などに母親が着物で来る姿も見られました。今は結婚式でも着物の姿はあまり見られず、ドレスが主流になりました。そんな中で、今は着物を着れば〝グッ〟と目立つのですが・・・
高屋 和の文化は奥が深いので、知れば知るほど面白いですよ。
●外国人がおみやげとして中古の着物を買って、ガウンやジャケットとして着こなしているそうですが、日本ではそこまで崩されても困りますよね。
高屋 美しく着てほしいですね。それと、おばあちゃんやお母さまの着物を自分に合った寸法に直して着る方も多いです。思い出もあるだろうし、買うより安いですからね。
とにかく、着物を着て楽しんでもらいたいですね。着物は敷居が高いと言われますが、着物の良さを知っていただくために、うちでは「着付け教室」を500円という価格で行っています。私は、着物を着て楽しんでいただくにはどうすればいいのかをいつも考えています。
正しく正直に
●着物の価格もピンキリですね。
高屋 一般の人には、価値の違いは分かりづらいです。ですから売る側の倫理性が大事なのです。少し前ですが、悪徳通販業者が蔓延り、異常な価格で次から次に分割で着物を押しつけるように買わせる社会的な事件もありました。つい先日も、他県ですがうちの数倍の価格で売っている店があると出入りの問屋さんから聞きました。
正しく、正直に商売する。そして、適正な利潤を得るという、まさに日専連信条ですね。
●着物はどちらから仕入れられているのですか。
高屋 いろいろありますが、京都、東京、十日町、米沢あたりが多いですね。
●最近の成人式での需要はいかがですか。
高屋 うちはあまり成人式の振袖には力を入れていませんでした。大手は、盛大に広告を打っていますが、中小では、広告費に見合った効果が得られません。実は今年、地元の百貨店と地元の呉服店2社で「振袖フェスティバル」を一緒に開催しました。振袖や帯を約1000点集めて販売しました。
今回は価格帯が少し高いものが多かったので、来年は顧客ニーズを把握した価格で再挑戦したいと思っています。
●20年くらい前にお戻りになったということでしたが、それ以前は何をなさっていたのですか。
高屋 今の業界とは、まったく関係のないスポーツウエア関連の会社に勤めていました。
●であれば、新鮮な目でこの業界を見られたのではないですか。
高屋 呉服というより、当時は婦人服も多くありました。外商もやって、よく売れましたよ(笑)。でも百貨店のような外商ではなく、ごく一般的な商品を売っていました。昔から地域密着で行っていたので、何の抵抗もなく入れました。着物だけではなく、洋服でごひいきいただいている方も多くいました。
昔は、着物が特に好きでなくても必要に迫られて購入する方も多かったと思います。留袖、訪問着や喪服など揃えておかなければならないという慣習のようなものがありましたからね。それが今ではなくなり、着物が好きな人以外は買わなくなりました。そのことが急激に需要が落ちてしまった要因の1つです。
うちは、平成14年をピークに着物の需要が落ちました。着物の単価は高いので、売れるか売れないかで店の経営に影響が出たことは否めないですね。今は、下げ止まっています。かつて2兆円あった着物市場は、今では3000億円くらいになりました。
●着物の古着やレンタルも増えましたね。
高屋 着物の古着は少し前までブームでしたが、少し落ち着いてきました。ネットでお買い物をされる方もたくさんいます。また、振袖をメインにしているお店ではレンタルや、写真館も併設するお店も全国的には増えています。反対に写真館で七五三の着物をレンタルする店も増え、ボーダレス化も始まっています。七五三の着物は、レンタルに押されて売れなくなりました。時代の流れですね。
こだわりを大事に
●着物のNPOにも所属されているとお聞きしましたが・・・
高屋 NPO法人「きものを着る習慣をつくる協議会」に加入しています。もっと着物を身近に感じていただき、着てもらおうという運動を行っています。本部は京都にあり、このNPOの活動を通じて情報のやりとりなどをしています。
●ほかに活動されていることはありますか。
高屋 盛岡市では、市をあげて「盛岡の夏を浴衣で楽しみましょう」ということで、「ゆかたのまち盛岡」を推進しているんです。私どもの店も盛岡市内の日専連の会員の何店舗かと協力し、この事業にかかわっています。また、今年は被災して盛岡に避難している方に、一般の方から浴衣を集めてお送りして、浴衣を着て楽しんでもらおうという活動を行っています。浴衣、帯など約500点以上が集まりました。
また最近は、浴衣を反物からあつらえて作られる人が増えています。ですから、出来合いの浴衣は売れなくなりました。
●人と違ったものを求めているのでしょうか。
高屋 そうだと思います。安物ではなく、かつ手が出ないほどの高級なものでもないもので、質と個性を求めているんだと思います。われわれもそこに力を入れて強みとするために追求しています。こだわりですね(笑)。楽しく個性的に、そして身近に感じてほしいのです。
昔は、〝売上げ第一〟でした。数字ばかり追いかけ、また追いかけられていました。それでは楽しくないですよね。
〝お客さまのためになる店にしようと〟考え方を変えました。もちろん、適正な利益はいただきます。そうしたら店の雰囲気も変わり、みんなが楽しく接客できるようになりました。
●こだわっていることは、何かありますか。
高屋 着物はタンスにしまっておくものでなく、着て楽しんでもらうものです。新潟県小千谷市に麻を素材とした着物で、世界無形文化遺産に登録されている「小千谷縮」というものがあります。柄も粋でぜひ夏に着ていただきたいおすすめの着物です。
今年もデザイナーと織り元と、われわれ呉服店がコラボしたオリジナルデザインの小千谷縮も発表しました。もちろん、数は限られている逸品です。
センスや作りにこだわりたいですね。帯締め一つ売るにしても、帯と着物に合わせてコーディネートさせていただきたいですね。
●着物という〝和〟の文化を扱われているので、マナーや作法について聞かれることもあるのでは・・・
高屋 着物のTPOで悩まれている方は多いです。さりげなくお教えしたりすると感謝されますね。
唐獅子牡丹のアロハシャツ
●着物文化を地元に定着させるためには何が必要でしょうか。
高屋 いろいろな場をつくっても参加される人数は限られてしまうので、着物文化を浸透させることは大変なことだと思っています。まずは、われわれが着物を着て、多くの方々に着物の良さを伝えていくことが出発点です。そして、着物を着る上でのハードルを低くしていく。
つまり、「着られない、着る機会がない、高くて手が出ない」をわれわれの努力で改善していくことが大事だと思います。
私の家内が、学校の行事などで着物を着ていくと「今日は何かあるのですか」とよく聞かれたそうですが、それが普通になってくれることを願っています。でも、少しずつですが学校のお付き合いなどで、着物を着る方が増えてきたそうです。
着付け教室などでも、上手に着られると着物を着て出かけたくなるそうです。ですから、着物が似合う飲食店などを紹介することもありますね。
●お店の中に反物や仕立物の着物がたくさんありますが...。
高屋 今は、着物のクリーニング割引期間中なので、商品がごった返しています。それに、夏の着物の入れ替えで商品が集中していることもあります。
●呉服店が減少していますが、まだ需要はあり、こういうお店はなくなってしまっては困りますね。
高屋 クリーニングで丸洗いもありますが、〝洗い張り〟という手法があります。着物は反物を切って縫い合わせたものです。〝洗い張り〟というのは着物をいったんほどいて、反物の状態に戻して洗う手法で、とてもキレイになります。
また、うちには陸前高田など、震災にあって泥まみれになった着物なども送られてきます。このようなひどい汚れは、洗い張りと汚れ落しをしてお渡ししています。
●言ってみれば、エコですね。
高屋 エコといえば、着物を洋服に作り変えることもしています。打ち掛けをコートにしたり、スーツやワンピース、ジャケットにしたり。唐獅子牡丹の柄の黒留袖をアロハシャツにしたこともありますよ(笑)。
また、ここにあるのは大正時代の型で作った襦袢ですが、テニスの柄なんです。チョットした〝粋〟を感じませんか。
人の役に立つ店に
●日専連に加盟してどれくらいになるのですか。
高屋 20年前に盛岡に戻ったらすぐに青年会への誘いがあり、それからず~っとですね。日専連は専門店の集団として祭りをはじめ、地域の文化など、さまざまなことにかかわり、市民からの信頼も厚いですね。また、先輩や仲間からいろんなことを学べますし、遊びも教えてもらいました(笑)。このつながりは大事にしていきたいですね。
●将来的なお店づくりについてお教え願えますか。
高屋 できたら現代の呉服屋として、何か革新的なことにチャレンジして、うちの店のこだわりの着物を提案していきたいです。また、新しいものを追求して発信していくのと同時に、伝統的なもの、本物の良さも発信していきたいです。
また、先ほども言いましたが、「人の役に立つ店」でありたいです。そして、少しずつ和の文化が広がることを願っています。
●〝和〟の伝道師として、ぜひ頑張ってください。本日はありがとうございました。
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