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「株式会社ほくせい」は、それまでつづけていた麺製造会社が業界不振に見舞われ、昭和47年に思い切った業種転換を図って葬祭業に進出。また、加藤久智社長は、30歳の若さで前社長であるお父さまから社長業をバトンタッチされて引き継いだ。これは、お父さまも30歳の時に葬儀会社を興したという理由からである。そして、今の葬祭業界の慣習や既成概念にとらわれずに、つぎつぎと新しいアイデアやシステムを構築して、コストダウンも図りつつ、着実にシェアを広げている。
 「株式会社ほくせい」は、地域文化の変革、葬儀の変化に対応しながら築き上げてきた。地域からの信頼を基盤とし、社会環境の変化や核家族化が進む中、お客さまの葬儀関連にまつわる潜在的ニーズを的確にとらえ「伝統儀礼を守りつつ、時代に合ったお葬儀を目ざして」をセレモニーコンセプトに、独自の葬祭サービスを構築してきた。
30歳で父親からバトンを受け 葬祭業では珍しい ISO9001を取得
加藤久智 氏 (株)ほくせい(桑名会)

08mise-01.JPG30歳の若さで父親から社長業をバトンタッチ

●昭和47年、お父さまの代のときに、それまで経営されていた麺製造会社を閉めて、葬祭業を始められたということですが、畑違いの業種に転換されたきっかけは何だったのですか。
加藤
 当時、大手の麺メーカーがどんどん大きくなってきて、その傘下に入った小さい工場は価格決定権がないので、大手からどんどん締め付けられて経営状況が悪くなり、会社を閉めたと聞いています。そして、価格決定権を持てるということで葬祭業を選んだそうです。当時としては思い切った決断だったと私も思います。

●今、葬祭ホールはいくつお持ちですか。
加藤
 7つです。

●ずいぶんたくさんのホールをお持ちなのですね。このお仕事を継ぐことには、抵抗はありませんでしたか。
加藤
 学生をしながらこの仕事を手伝っていましたので、抵抗はありませんでした。

●では、他社に修行に出ることはなかったのでしょうか。
加藤
 1度は外に修行に出たかったんですが、私が抜けると仕事が回らないような状況でしたので、仕方なくそのまま家業に入りました。ただ、それだけでは納得がいかなかったので、さらに2年間、大学院で宗教について勉強しながら仕事をしていました。

08mise-02.jpg●30歳で社長を継がれたということですが、お父さまはずいぶん早く引退されましたね。
加藤
 54~5歳でしたかね。父も30歳のときに製麺業をやめて葬祭業に転換したんです。だから30歳ならできるはずだ、29歳から社長をやれと言われました。

●30歳で経営にたずさわるとなると、人の使い方などご苦労もあったでしょう。
加藤
 そのころ社員はみんな年上でしたから、思うようにいかないことはありました。今年で12年になりますが、今は今で、やはり難しいですね。

●最終的に大切なのは人だと思うのですが、社員教育はどのようにしてらっしゃいますか。
加藤
 毎日の朝礼では倫理法人会発行の『職場の教養』を読んで、人としての在り方について話しています。また月に1度の早朝会議でも、私自らが社員に対してどうあるべきかという話をしています。

同業者の常識は非常識 異業種を見習っている

●葬儀ってすごくデリケートなもので、ご遺族や参列者への対応は難しいでしょうね。
08mise-03.JPG加藤
 お客さまは感情の起伏が激しくなっているときですから、些細なことが大きなクレームになったりもしますね。ですから、常に相手の気持ちを考えて仕事をするようにと社員には言っています。
 うちは、葬祭業では珍しいんですが、ISO9001という品質認証を取得しています。三重県下ではうちだけだと思います。お客さまに一定のサービスを常に提供しなさい。そしてさらに、マニュアルプラスワンと言いまして、もう1つ、あなたの気持ちの中で、お客さまに提供できるものを心がけなさいと社員には言っています。マニュアルはできて当たり前、プラスワンが非常に重要なんです。
 また、この業界は、価格が不透明だと言われています。うちは全般的には安かったのですが、価格の透明化という点では社内でも分かってないことがありました。
08mise-04.JPG 私がこの業界に入ってまずやったことは、ロウソク1本の値段まで、きちんと価格帯をつくったことです。それは、ほかの業界では当たり前のことなんですね。それと、受注から打ち合わせ、準備など、葬儀の施行すべてをマニュアル化しました。今まで勘や経験でやっていたことをすべてマニュアル化して、当社に入社して3カ月間のプログラムを終えると、1人前になれるような仕組みをつくりました。

08mise-05.JPG●ところで、祭壇などのランクというものは必要なものなのでしょうか。
加藤
 うちはすべて同じでもかまわないのですが、ご遺族のほうでランクにこだわりを持たれる人がいらっしゃいますね。祭壇そのものはリースですから原価はかかりません。今はそれを花で飾るのが主流になっていまして、費用がかかるのは飾りの部分なんです。しかし、ランクや規模の大小はあったとしても、うちはふれあい宣言「1人ひとりに変わらぬ愛を」ということを謳っています。大きな社葬であろうと、ささやかな家族葬であろうと、故人を送る気持ちは同じです。

●社員教育は、どうされていますか。
加藤
 葬儀組合で教えてもらうこともありましたが、社員には同業を見ていてはダメだとよく言っています。われわれの業界の場合、同業者の常識は非常識であることがとても多いんです。むしろ異業種を見習っています。サービスではレストランや百貨店、ホテルを参考にしていますね。
 特に今、組合でも言っていますが、ホテルにはシティホテル、ビジネスホテル、旅館など、それぞれにランク、価格帯があるのに、葬祭業は一括りで判断されてしまいます。高ければそれなりの理由があるはずなのに、そういう分け方がありません。今後は葬儀会館においても、そのような分け方が必要だと思います。

●葬儀はそうそうあるものではないので、経験のないわれわれとしては、最終的には担当者にお任せしてしまうことになります。
加藤
 それに関しては、われわれの商売は銀行や保険屋さんに似ているとよく言っています。実際に目にしていない商品を売るためには、信頼を得なければいけませんし、お客さまにとってはブランド力が一番の安心感になります。

●葬儀においては、その人の最後のイベントとなるので、感動を与えるための演出も必要だと思うのですが。
加藤
 祭壇や霊柩車などは画一でいいと考え、お客さまにも一般的なものをおすすめしますが、大手にできないサービスということでは、ご遺族に取材させていただいて会葬御礼とは別に、故人のプロフィール礼状を付けたり、葬儀において司会者が故人の生い立ちをご紹介したり、葬儀場に写真パネルを飾ったりというようなことをしております。
 故人がどう生きてこられたかを会葬者に伝えることが、われわれがやろうとしている葬儀なのです。そこに葬儀の意味があるんです。

日本人の宗教観が希薄になってきている

08mise-06.JPG●最近は散骨があったり、無宗教の葬儀なども多くなってきましたね。
加藤
 若干はありますが、この地域ではまだ少ないですね。それよりも憂慮しているのは直葬が増えてきたことです。東京では5割が直葬になっていると聞きました。亡くなって病院の霊安室からすぐ火葬場に行くという葬儀です。これは費用面のこともありますが、生前のお付き合いがないために会葬者がいないという理由もあるんです。平均寿命が延びまして、今は天寿を全うして亡くなる方のほとんどが90歳代なんです。そうなると親族もすでに亡くなられているか、高齢になっていますから遠方からは来られませんよね。ですから寂しい葬儀が増えています。
 われわれは商売ですから少しは派手にしてほしいと思いますが、商売抜きで考えても、これではあまりにもひどいんじゃないかと思う葬儀が増えましたね。

●お寺とのつながりも薄れてきていますよね。また在日外国人も増えてきましたから、これまで経験したことのない葬儀もこれから増えてくるんじゃないでしょうか。
加藤
 外国人を送るケースは増えています。われわれはプロですから、どのような宗派にも対応しています。むしろ日本人の宗教観のほうに、われわれは危機感と懸念を持っています。
 宗教は倫理なんです。無宗教になると倫理感がなくなってくると思うんです。アメリカやヨーロッパも宗教離れが言われていますが、それでもキリスト教を中心にした倫理感、奉仕の理念で社会がつくられています。日本人はそれも分からずに仏教なんかいらない、神道なんか関係ないと言っているから、簡単に人を殺すような社会になってしまったんじゃないでしょうか。われわれ葬儀屋の言うことではないかもしれませんが、現世における「生」についてもう一度考えてほしいと思っています。

●仏教にしても神道にしても、それに携わっている方の言葉が、社会に浸透していないような気がします。
加藤
 『葬儀は、いらない』という本が出版されたりして、お寺さんでは葬儀がなくなると食い扶持がなくなるから大変だと言っています。私はむしろお寺さんが、普段から法要などで、檀家信徒を大切にしたお付き合いをしていないことが良くないと思っています。われわれの言うことではないかもしれませんが、布教活動をもっとしていく必要があると思いますね。

葬儀における事前相談が増えてきた

08mise-07.JPG●葬儀に関する知識のない方のための相談コーナーもなさっていますね。
加藤
 定期的に相談会を開催して、葬儀や法要についてのご相談をお受けしています。

●葬儀については、生前からの準備もある程度は必要じゃないですか。
加藤
 ここ数年、変わってきたのはそこですね。事前相談が非常に増えてきました。費用が心配だということもありますが、自分の葬儀をちゃんとしてほしいということで、ご本人が相談を申し込まれることもありますし、余命あと何日ということで、ご家族が相談に来られることもあります。

●土壇場になって慌てたくないですからね。悲しいときにお金の話なんかしたくないですし...。
加藤
 事前相談をしておくと、費用も分かりますから、まずお金の不安がありません。会葬者の人数もだいたいの想定で会館の部屋の規模も決められます。そうするとご遺族が故人と最期の時をゆっくり過ごすことができます。それが理想です。
 以前は、相談など縁起でもないと言って来られる方は少なかったんですが、今は多くなりました。

人材を育成して事業をより拡大していきたい

●葬儀費用が、ほかと比べて安いとお聞きしましたが、安さの秘訣は何ですか。
加藤
 効率化です。会館は、元はスーパー、本屋、パチンコ屋、レストランだったところをリニューアルしていますので、建築コストが抑えられました。また、各会館は無人化していますので、人件費もかかりません。マニュアル化によって無駄を省き、葬儀に関わる人数も減らしていますし、アウトソーシングによるコストダウンもあります。その結果として、他社の3分の2ぐらいの費用に設定できていますので、このあたりで9割のシェアをとっています。

●会館を持っていたほうが効率的ですか。
加藤
 東京のように公営の式場を使えるのであれば、会館は持たないほうが効率的ですが、地方都市ではそういうわけにはいきませんね。それと会館を持っていることによって、信頼性やブランド力が高まります。

●新しい発想で12年間、どんどんやってこられたわけですが、今後の抱負、あるいは取り組んでみたいことがありましたらお話しください。
加藤
 地域との連携を今まで以上に強めていきたいです。今年、「第1回仏事フェア」を開催しました。これは仏壇屋さん、墓石屋さん、料理屋さん、花屋さん、ギフト屋さんなど、いろいろな地域の業者との共同開催でして、うちのお客さまも、仏壇屋さんのお客さまもみんな来ていただいたんです。そしてうちのお客さまが仏壇や墓石、料理を見たり、料理屋さんのお客さまが葬儀の相談をされたり、そういう普段からのお付き合いをこれからは考えていく必要があると思っています。

●違う業種と組んだイベントの一角に葬祭コーナーがあれば、お客さまは別の目的でイベントに参加してきても、ちょっと話を聞こうかなと思うかもしれませんね。
加藤
 まさにそのとおりです。仏壇を見に来たついでに、ちょっと相談しておこうという具合ですね。

●お父さまから30歳で任されたということですが、ご自身もお子さんに継がせるお考えはお持ちですか。
加藤
 まだ上の子が高校3年なので、そこまでは考えていません。私が継いだときと今とでは違います。本人にやる気があれば継がせますが、そうでないなら社員に任そうと思っています。

●社員は何名ですか。
加藤
 正社員が36名です。あとはパートさんです。

●思ったほど多くないんですね。足りないところは派遣ですか。
加藤
 パートさんと人材派遣を合わせると70人ぐらいになります。通常、うちぐらいの規模でしたら正社員が70人いてもおかしくはないですね。

●葬祭業に関連して、ほかにやってみたい事業などはありますか。
加藤
 うちが培ってきたノウハウを、ほかの葬儀社さんに提供できるような事業ができればと思っています。うちの場合、ライバルは大手の互助会なんですが、組合仲間で、うちと同じくらいか小さい規模で頑張っているところがありますので、ソフトの提供などは考えられますね。

●葬祭事業全般が怪しくはないということを、消費者に理解していただくという意味もあるのでしょうか。
加藤
 これからの葬儀は、そうでなければいけないという思いがありますね。うちの場合、受注があるとお客さまのところにパソコンを持って行って見積もりをしています。保険屋さんや自動車屋さんでは当たり前ですが、葬祭業でやっているところはほとんどないと思います。

●もっと広げていく構想はお持ちですか。三重県全体を網羅するとか...。
加藤
 うちのやり方が間違っていなければ、自然に広がっていくんじゃないかなと思っています。

●7つのホールを拠点に、それぞれで活動されているわけですが、もっとエリアを拡大していくためには、社員教育も必要ですし、任せられる人材の確保も重要ですね。
加藤
 これから事業をさらに拡大していくためには人が重要になると思います。毎年、新卒を採用していまして、今年も4人採用しました。うちの教育訓練プログラムやマニュアルは昨年で完成しましたので、これからは人をたくさん入れて、そのプログラムで教育し、われわれと同じ理念で働いてもらえる人間をどんどん養成して、事業を拡大していきたいと思っています。

●葬祭業というのは人の心に直接響くものですから、理念はすごく大事ですね。これからも頑張ってください。ありがとうございました。