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ファッションマーケティング昨日・今日・明日 Vol.2
SPAから
ファストファッションへ
第1回は、戦後から20世紀の終わりまで、ファッション業界が「製品志向→販売志向→顧客志向」とビジネスモデルを発展させてきた過程の話でした。その中で商品価値は、品質からブランドによる差別化へ、そして着こなしによる差異化へと変化してきました。
1989年のベルリンの壁崩壊に始まる90年代のグローバル化は、国境を越えて最適化されたサプライチェーンによって、適材適所での商品供給を可能にしましたが、21世紀はさらに低価格競争が激化していきます。
9・11同時多発テロ
90年代が、1991年の湾岸戦争で始まったのに対し、皮肉にも21世紀は9・11のアメリカにおける同時多発テロでスタートしました。これは私にとって、戦争というものを身近に感じると同時に、20年以上にわたって海外ブランド提携やライセンス生産に関わってきた自分の立ち位置を確認した事件でした。
2001年9月11日、2002年春夏ニューヨーク・コレクションは始まったばかりでした。いつものように、コレクションサイトからショーの写真をダウンロードしている夜、突然インターネット接続が切れました。仕方なく仕事を切り上げ、帰宅してテレビをつけて同時多発テロを知りました。そしてニューヨーク・コレクションは、その日で2002年春夏コレクションを史上初めて中断し、その後行われたミラノ・コレクションではグッチ、ドルチェ&ガッバーナなど、多くのデザイナー・ブランドが特別に作品を追加して、9・11の衝撃と犠牲者への哀悼を表現しました。
1991年の湾岸戦争のときもそうでしたが、紛争状態になると日本の大手企業は一斉に海外出張が禁止になります。ちょうど、ミラノ、パリでデザイナー・コレクションに前後して素材展が開催される時期に、商社、アパレルメーカーは買い付けに行けなくなります。その結果、取引先に買い付けや情報収集を依頼され、私のような弱小企画会社のオーナー経営者は、ガラガラの航空機でパリに飛ぶこととなりました。
そろそろアメリカの報復攻撃があるとうわさされつつも、何とか無事素材展が終了し、10月7日の帰国の日を迎えました。海外出張禁止令のせいで「パリ―東京」直行便の日本人乗客は異常に少なく、マイレージの優待でビジネスクラスどころかファーストクラスにアップグレードされて、待合室で出発を待っていました。
ゲートまで案内された後、搭乗直前にアメリカ軍によるアフガニスタン攻撃のニュースが入り、飛行経路の安全確認のために出発を遅らせるので、待合室に戻るよう指示が出ました。数人の乗客はすごすごと待合室に戻ったのですが、ファーストクラス・ラウンジのフロアに戻って驚いたことは、アメリカ系以外にも海外航空会社の待合室からは歓声が聞こえるではありませんか。
多くの日本人にとって9・11は衝撃ではあっても、一部の当事者以外は他人事であったと思います。犠牲者を悼んでも、それはわが身を切られる痛みではなかったのです。しかし、シャルルドゴール空港には、衝撃をわが痛みとし、わが憎しみとした人々がいたのです。アメリカ軍の報復攻撃に祝杯を挙げられるほどに...。欧米人とはこのように連帯感を持つのかと気づかされました。
このテロは、翌年の2003年春夏コレクションに影響を与え、70年代反戦運動の象徴として「フラワーチルドレン」を多くのデザイナーが取り上げました。開催日もテロの記憶が生々しすぎるとして、ニューヨークとロンドンの日程を入れ替えて行われました。デザイナー・コレクションの日程が組み変えられたのは、これまたコレクション史上初で、ここにも欧米の連帯感が感じられました。 この出来事をきっかけにして、私は日本人にとってグローバル化とは何かを考えるようになりました。当時20年以上にわたって、ヨーロッパのトレンドを日本市場に展開し、ヨーロッパのデザイナーを紹介してきましたが、サイズ、髪や肌色の違いだけではなく、他者との距離感やアイデンティティのより所がどうも違うのではないのだろうか、その違いにより、マーケティングに差が生じるのではないかという疑問を心の奥に持ち始めたのです。
2001年~ファッションの二極化 ラグジュアリーブランドの進出
しかし、現実には「1億総中流」といわれた日本社会も「持てる者と持たざる者」に2分され、21世紀に入って、ファッションの2極化はさらに推し進められていきます。その要因は、1つにはバブル崩壊による日本の地価の下落で、出店が容易になったことです。2004年以降の海外ラグジュアリーブランドの旗艦店のオープンラッシュは圧倒的でした。まず、プラダの青山エピセンターストア、ルイヴィトンの表参道店からスタートし、やがて最も地価が高いといわれる銀座にも進出し、シャネル、ディオール、アルマーニと大型ビルが次々に建てられていきました。
これらの海外ラグジュアリーブランドは企業グループを形成し、表1に見るようにグループのパワーは日本のアパレルメーカーの比ではありません。階級社会とオートクチュールの歴史に裏付けられたラグジュアリーファッション業態において、日本の単一メーカーが対抗するのは並大抵のことではないと知らされます。
ファストファッションの登場
2極化を進めたもう1つの要因は、低価格を売りにするファストファッションの台頭があります。最近ではSPAも含め低価格商品を扱うショップを「ファストファッション」と言う傾向がありますが、正確には大きな違いがあります。 SPAとファストファッションの違いを、商品から比較すると表2のようになります。
ファーストリテーリングは2008年のH&M上陸を見据え、2006年にいち早くファストファッション業態「ジーユー」を展開しました。この年「2010年売上高1兆円」構想を発表しています(2009年9月にはさらに大きく「2020年売上高5兆円、経常利益1兆円」の目標を掲げています)。実は、今でこそ"勝ち組"といわれますがフリースブーム以降売上げが低下し、過去最高だった2001年の売上高に戻すのに5年もかかり、やっと2006年に達成しています。そこで、中期目標が「2010年売上高1兆円」となったのですが、これはなかなか大変な数字です。
そして、現在も決算で見る限り、連結では黒字でも、ジーユーを含むGOVリテイリング事業単独では*赤字です(赤字事業は唯一これだけです)。低価格=低利益につながりやすい事業運営の難しさでしょう。
一方、"一人勝ち"といわれるユニクロも2010年に入り、国内既存店売上高は前年同月比3月16.4%減、4月*12.4%減と2桁ダウンしています。天候の問題と報告されていますが、実際には売上げを伸ばしているブランドもあり、天候のみが不振の要因とはいえないのではないかとも言われています。それは売上高だけでなく、客数の低下(3月10.7%減、4月*7.8%減)からもうかがえます。5月はユニクロ誕生感謝祭を実施するなど積極的な販促活動を展開し、既存店売上高で103.1%、客数で*106.9%と回復しましたが、客単価では未だに*4.2%減と前年同月比をクリアできていません。(*:FR IRレポートより)
SPAとファストファッション業態における世界的競争は、日本もなかなか健闘中です(表3)。
ファーストリテイリングが「2010年売上高1兆円」を掲げる理由がトップ3社であるH&M、GAP、ZARAに肩を並べるための目標であることは明らかです。中でも伸び率、利益率ともにナンバーワンのH&Mを最大のライバルとしていると思われます。SPAとファストファッションで、それぞれの戦略は違いますが、両社とも拡大路線を進んでいます。ギャップが成長をやめ既存店の見直しなど、効率化を余儀なくされているのとは裏腹に、H&Mもファーストリテイリングもコストを下げるため、まだまだ拡大せざるを得ないのかもしれません。
しかし、ファーストリテイリングにおける3月~4月の足踏み状態が示しているように、「安さ」の価値が消費者心理的にも生産コスト的にも、そろそろ限界に達しているのではないでしょうか。
H&Mは店舗数がほぼ同じで、ファーストリテイリングの2倍弱の売上高と約2.5倍の営業利益を上げています。1店舗あたりの規模と効率性の違いのほかに、中国生産に集中しているファーストリテイリングに比べ、その生産国の広がりと生産の現地化(自社生産ではないこと)によるコストメリットを十分に活用しています。
ファーストリテイリングも、ジーユーの990円ジーンズなどカンボジア、バングラディシュに生産国を広げていますが、品質の壁はなかなか越えられないものがあると思われます。アジアの縫製コストは表4のようにかなり開きがあるものの、熟練度に比例して上昇していく傾向が見られます。
ジャパン・クオリティは素晴らしいと言われながら、生産拠点の縮小、海外移転が続き、国内の生産・労働の場所は減る一方です。
・ 帝人はポリエステル長繊維の国内生産を2010年末までに中止し、タイ生産に切替え。
・日清紡はインドネシアなどにシフトし、国内生産を大幅縮小の方針を決定(10年1月)。
・クラボウはデニム糸を生産する岡山工場を閉鎖(09年6月)。
・世界最大の素材展プルミエール・ヴィジョンで受賞する技術がありながら、尾州産地の有力中堅生地生産業いわなか株式会社が破産(09年11月)。
そろそろ、大量生産・大量消費・大量廃棄をもたらしてきた低価格への神話を捨て、私たちは価格を超える「価値」を考える必要があるのではないでしょうか。食におけるスローフードや地産地消の流れが、人々の安全や自然にこだわるライフスタイルから生まれたように、衣においてもこの閉塞した社会のパラダイムを変換する発想が求められているのではないでしょうか。それは、あらためて日本の強みと弱みを知り、日本人のアイデンティティを問うことから始まる気がします。
用語解説
SPA:Specialty store retailer of Private label Apparel 製造小売業。企画、製造、販売を1社にて行うことにより、企画生産販売の時間短縮と効率UP を図る。原料在庫リスクと製品在庫リスクを負うが、大量発注・大量生産によりコストダウンを達成し、市場の占有を図る。大量販売を狙うためターゲットを広くとり、商品はベーシック。
例:ユニクロ、GAP
ファストファッション:アパレル卸メーカーと密接に協力し、最先端の流行を低価格商品に取り入れ、多品種少量を売り切る。アパレル卸メーカーを使うため原料在庫は持たず、最安値と商品鮮度により高回転率を維持し、在庫リスクを回避する。
例:H&M、フォーエバー21
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