機関誌『専門店』ハイライト
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店人いま 238
世界でも屈指の繁華街・新宿で
和の精神を伝える茶道具店を構える
まさに、喧噪の中のオアシス
一色誠孝氏 しんじゅく一色(新宿会) 聞き手 日専連組織部 宇田弘
世界でも指折りの繁華街・新宿。今回の取材先の茶道具店「しんじゅく 一色」は、新宿東口から徒歩2分、新宿紀伊国屋の手前、中村屋本店の正面に建つ9階建てのビル(一色ビル=自社ビル)の5階にある。
店内には茶室があり、BGMで小鳥のさえずりが流れていて、大変落ち着きのある雰囲気だ。新宿のど真ん中だとは思えない。まさに、喧騒の中の「和のオアシス」という感じだ。しかし、窓を開けると新宿の雑踏とざわめきがあり、そのギャップがスゴイ。
店内の落ち着いた茶室で、一色社長からお抹茶とお菓子をいただいてから取材させていただいた。
今と同じ場所に
大正の初期に創業
●創業はいつごろですか。
一色 確かな記録はないのですが、曾祖父の一色林之助が創業者で、今と同じ場所に大正の初期に創業大正の初めごろに穀物商を始めて、その後すぐに花器店を開き、茶道具なども扱うようになったようです。ですから、茶道具としては大正初期創業と言っていいと思います。私で4代目になります。
茶道具を扱った理由は、ライバル店が少なかったことだと聞いています。
●お店は昔から、ここ新宿にあったのですか。
一色 そうです。ずっと新宿です。以前は鎌倉にも店がありまして、私も10年くらいいました。今、鎌倉にはお店はなく、外商のみで行っています。
●創業当時の新宿はどのような状況だったんでしょうね。
一色 創業当時(大正初期)から賑わっていた新宿でも、ちょっと奧に入ると追いはぎが出たと聞きます。
●私もずっと東京で育ちましたので、幼いときから新宿を見てきましたが、西新宿の変貌はスゴイですね。
一色 昭和47年ごろから高層ビルが建ち始めました。それまでは、小さな飲食店や学生向けの下宿屋などもあったんですよ。今では見る影もないですね。
●このお店に来られるお客さまは、どのような方々ですか。
一色 ここはビルの5階にありますから固定客がほとんどです。お稽古の先生やそのお弟子さん、そして学校や企業の方もいます。
●学校や企業ですか?
一色 高校や大学、そして大手の企業の中に茶道部があるんです。その方たちにもひいきにしていただいています。ですから、ご紹介などで新規のお客さまや若い方にもご利用いただいています。
●一色さんご自身も茶道はされるのですか?
一色 裏千家の師匠に手ほどきを受けています。最近はさぼってばかりですが(笑)。
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●茶道具はどのあたりが有名ですか?
一色 京都が多いですね。焼き物に関しては三重県松阪、四日市、滋賀の信楽(しがらき)焼などでしょうか。
また、私どもは「彩味會(さいみかい)」という全国でも有名な問屋さんで組織されている会に加盟して、全国から仕入れています。
●お客さまの年代はどうですか?
一色 若い方もいますが、やはり60歳以上の方でしょうか。
ただ、茶道の世界はあまり代替わりがないんです。20年前の先生は今もズーッと先生をしていますし、お弟子さんも20年前からお弟子さんというところが多いんです。
●私などから見ると茶道は格式が高く、敷居が高いというイメージを持ってしまっています。
一色 確かにそうかもしれませんね。そこを私どもが先頭に立って変えていかなくてはいけないと思っています。
店に入る前に半年間
京都の大徳寺で修行
●茶道は日本古来の作法がありますが、茶道の精神的な部分をお教え願いますでしょうか。
一色 私は小さいころから、夏休みにはお寺に入れられました。そして、私が23歳の時、このお店で働くなら問屋に1年間勉強に行くか、禅寺に半年修行に出るか、どちらかを選べと父に言われたんです。そして、私は期間が短いお寺の修行を選び、あの千利休のお墓のある、有名な京都の大徳寺に修行に入りました。
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●お寺で茶道具のことが学べるのですか?
一色 その寺には、国宝級の道具がゴロゴロしているんです。また、茶道に関する書物もたくさんあり勉強になりましたね。
●修行はきつくありませんでしたか。
一色 始めの1週間はきつかったですね。でも、1週間が過ぎれば、私と同じ歳くらいの小僧さんもいて、友だちになり、楽しかったですね。
修行は、掃除から始まり、読経、座禅、飯の支度などです。お経は、3日でまる暗記できました。でも、中には修行がつらくて逃げ出す小僧さんもいましたね。
私がお寺に入ったとき、初めに和尚からすべてを全否定されました。和尚からは頭で考えずに、足で考えろと教わりました。寺では五感を磨き、理屈ではなく体で覚えろということです。茶道でも、考えながらでは作法がギクシャクしますが、体で覚えてしまえば流れるようにできます。自然体ということですね。
●でも、半年は長くなかったですか。20代前半といえば遊び盛りですし...。ましてやここ新宿とは環境があまりにも違うじゃないですか。
一色 それまで十分に遊びましたから...(笑)。
●修行で大事なこと、あるいは身についたことはどんなことでしたか?
一色 まずは、自分をさらけ出せるかどうかということです。自分を正直に表現するということでしょうか。そこから邪念を捨てて、自分の「素」の状態を高めることですかね。皆さんプレーにおけるマナーはすごくいいんです。でも、1歩外に出て、街で歩いているときや車を運転しているときは、マナーは守られているでしょうか。相手の立場に立って物事を考えられる、心のゆとりが欲しいですね。
●心にゆとりができ、人間的なマナーが高まれば、日本はより文化的な国になりますね。
一色 まずは私自身から変えていこうと、これまでやってきました。まさに悟りの境地みたいなもので、終わりはありません。茶道は知識や形だけのものではないんです。
●このお店は新宿駅から徒歩2分の場所にあるとは思えませんね。初めてお店に入ったとき、すごく落ち着いた気持ちになりました。BGMで小鳥のさえずりも聞こえます。店内には茶室があり、竹があり、まさに喧騒の中にある「和のオアシス」という感じですね。
もう1つ、ディスプレイがスッキリしていることも、落ち着いた気にさせてくれたと思います。ディスプレイはどなたかにご指導いただいたのですか。
一色 ディスプレイの指導は受けていません。感覚的に行っています。ただ、お客さまから見やすく、手に取りやすいようなディスプレイを心がけています。
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●ディスプレイでは、お客さまに商品をたくさん見てほしいということで、もっと商品を並べたかったのではないですか。
一色 抑えていますよ。たくさん並べて見てもらいたいのは山々です。でもそうすると、一つひとつの商品が死んでしまうんです。
●いろんな道具がありますが、目利きは難しそうですね。
一色 目利きは難しいですよ。ですから、信頼できる問屋さんで組織されている彩味會と代々お付き合いをしています。
その世界の目利きとして有名な方でも、年に1~2回はハズレをつかまされるようです。目利きとしてのスキルを高めるには、たくさんの道具を見ることでしか養えません。うつわなどの色も、光によって違ってきます。また、手に取った感触も重要です。うちでは実際に商品を見て、手に取ってから購入していただきます。ですから、うちはインターネットでは商売していません。
お茶会は完成度の高い
ティーパーティー
●ご自身から見て、この商売の醍醐味はどんなところでしょうか。
一色 たまたま知り合いの方が来て「お茶を始めることにしました」と言われたんです。「どうして始めようと思ったのですか?」と聞くと、「一色さんからいろいろとお茶の話を聞いていたら、いつまで続くか分からないけど、ちょっとやってみようかという気になったんです」と言うんです。
お客さまの喜ぶ顔を見たいというのは、どんな商売でも共通していますが、「お茶を始めてみようかな!」と言っていただいたときが一番"グッ"ときますね。
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●茶道の魅力は、どのようなところですか?
一色 茶室に入る前、茶室に入ったとき、茶室を出たとき、それぞれに良さがあります。
茶会を催すとき、主催者側はどのようにしてお客さまに楽しんでいただくかというおもてなしを企画する楽しさ。そして、お呼ばれした方は、どのような茶会になるだろうとワクワクします。
呼ばれた方は、茶会の催しのすべてを見るんです。茶会で使われている道具や演出。お呼ばれした方は、主催者のおもてなしへの心遣いを見逃しては失礼になります。それは、茶道のマナーです。
茶会の席では流れるような御点前で、お互いのやりとりや場の空気がビシッと一つになったときは何とも言えませんね。
そして茶室を出たとき、呼ばれた方は「来て良かった!」、主催者は「催して良かった!」という気持ちになったときが最高ですね。
●まさに、パーティーですね。
一色 そうです。完成度の高いティーパーティーです。
今こそ出発点、今頑張ら
ないでいつ頑張る
●ご自身のご商売、または茶会に関することでも結構ですので、今後の展望などについてお聞かせ願いますでしょうか。
一色 一期一会ではないですが、一生に一度しかない、またはこの瞬間しかないという気持ちで、人との出会いをはじめ、仕事でも、何をするにもこの気持ちを大事にしていきたいですね。
お寺の修業時代に和尚が言っていた「今こそ出発点、今頑張らないでいつ頑張る」という気持ちでこの道具屋という商売を通じて、お茶の精神を伝えていきたいですね。また、茶室の中だけではなく、外に出て街の中でも茶会の精神、マナーを広めていきたいですね。
●円滑なコミュニケーションの構築ですね。
一色 お茶の世界では、コミュニケーションなくして成り立ちません。最近、コミュニケーションをうまくとれない人が増え、犯罪にも繋がってきていますので、不安に感じています。
●お茶会では、その人の人間性が出ると思うので、人間磨きも余念がないのでしょうね。
一色 おっしゃるとおりです。
●五代目の後継者はお決まりですか?
一色 高2と中3の息子がいますが、無理に継がせる気はありません。でも、それとなくお茶には触れさせています。
長男が小学生のころ、学校の先生に頼まれて全児童を対象に課外授業として、お茶に関することを教えたことがあります。また、幼稚園でも行いました。
●日本の文化である茶道、そしてマナーを教わるいい機会ですね。
一色 教わった子どもさんが、家でご飯を食べるときに正座をして"いただきます"と言うようになり、親御さんがビックリしたなんてことを聞きました。
●息子さんが「親父、店を継がせてくれ」なんて言ってくれたらいいですね。
一色 でも、息子たちにはいろんな世界を知ってほしいですね。そして、苦労をしてほしいです。自分もそうでしたが、海外にも行かせたいです。
●家から出すということは、子どもにとって大変良いことだと思います。家にいたら"甘え"が出ますからね。それと、親のありがたみ、特に母親のありがたさが分かると思います。
一色 私も海外に留学して、掃除、洗濯、そして自炊を経験して母親のありがたさが身にしみました。また、親に迷惑をかけたくなかったので、ギリギリの仕送りで、あとはアルバイトをして生活しました。いい経験でしたね。
商売でもなんでも、一人の人間として、まわりに対する気遣いと、強い意志と行動力を養うことが重要だと思います。
●本日は、お忙しいところありがとうございました。
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