機関誌『専門店』ハイライト
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店人いま 5月号
現代の生活と伝統を意識した
青森市内屈指の民芸品店
大嶋 崇太氏 (有)津軽物産販売所・陶房あるち
聞き手 トレーニング ウィズユー 阿部眞代
大きな自然に育まれた人間味豊かな青森。その街の生活の中から生まれ、発達してきた数々の民芸品。現代の暮らしの中にも、独特の文化を築き上げた先人の知恵が、民芸品を通して静かに息づいている。
キラキラとしたまだら模様と堅牢さで全国にファンが多い津軽塗りは、この地方の家庭では汁碗として馴染みが深い。あけび蔓細工のかごは、おしゃれを楽しむご婦人方のアイテムとして人気がある。人々の生活に根付いているこの歴史と伝統の中で、今は衰退し、人々から忘れ去られてしまった悪戸焼き。
これらの民芸品を、多くの人々に知ってほしいと店を開いた津軽物産販売所は、50年の時を経ても色あせることなく、今日も新町通りに凛とたたずむ。
初代の意志と二代目の感性を引き継ぎ、三代目を目指す後継者は、青森の民芸品を中心に全国の本物にこだわった品揃えと共に、新しい経営感覚を取り入れ、若き作家たちとの共生を試みる。
伝統に新しさを加えながら伝統に新しさを加えながら
●大変歴史のあるお店という感じがいたしますが・・・。
大嶋 そうですね。まだ代替わりはしていませんが、私で三代目になります。
●そうしますと、創業から何年になりますか。
大嶋 50年くらいになります。祖母が始めました。
●最初は津軽の品物だけを扱うお店だったのですか?
大嶋 祖父が、津軽塗りの下駄職人だったんです。昔は青森にも津軽塗りの職人がいました。そこに祖母が嫁いできて、祖父が作る下駄を広めたいと津軽塗りの品物を置いて商売したのが店の始まりです。ですから、もともとは津軽塗りしか扱っていなかったんです。
●いろいろな民芸品を扱うようになったのはいつごろからですか?
大嶋 それは二代目が店を手伝うようになってからです。母親があちこち見て回って、津軽塗り以外の工芸品、あけび蔓細工とかこぎん刺しとか、そのあたりから全国の焼き物などを置き始めました。そのうち外国の雑貨類も扱うようになりました。
一階は津軽物産販売所、二階は津軽塗り以外の商品を置き、貸しギャラリーや喫茶なども開いていて、"ギャラリーあるち"という名で営業していました。
●今の営業スタイルは?
大嶋 私は4年前に青森に帰って来ました。それまでは焼き物の修行をしていました。帰ってきて店を継ぐ気はないと思いながら手伝いをしていましたが、去年の7月に窯を設置して一階の奥半分を工房にしました。
●大改造をしたのですね。
大嶋 改造と言うか、一番安く済む方法をと思って簡単に済ませました。この窯も入り口に入るぎりぎりの大きさを探し、引きずってここに持ってきました。ですから改造らしい改造は特にしていません。
運良く弟子入りがかなって
●焼き物の修行はどちらでなさったのですか?
大嶋 修行は沖縄が一番長かったです。
●沖縄には有名な焼き物がありますね。
大嶋 壷屋焼きです。金城次郎さんが有名です。金城さんは、もともと壷屋という地区で作品を作っていましたが、壷屋にもだいぶ民家が増えてきて、焼き物の煙が住宅地に流れるなどの苦情もあって、壷屋から中部の読谷村(よみたんそん)という所に移ったと聞きました。そこに焼き物やガラスの工房が集まるようになって、今では"やむちんの里"と呼ばれるようになっています。土地政策の一端として工芸品の工房を集める文化的な街にしようということになっています。
●沖縄の焼き物にご興味をお持ちだったのですか?
大嶋 短大生のときに陶芸を専攻していましたが、いわゆるろくろの勉強しかしていなかったんです。茶碗を作るとか皿を作ることはできましたが、釉薬(ゆうやく=上薬)や土を作る勉強はしていなかったんです。授業にも入っていませんでしたので・・・。
そこで土作りとか、陶芸を始める前の仕事を勉強したいと思ってあちこち見て歩いたり、情報を集めたりはしたんですが、その時代はもうガスとか電気などの窯もあって、土も専門の業者が作っていて、手作りでやっている所がなかなかなかったんです。
お店は新町商店街にあり、ひときわ目を引く
街中で煙が出せないので、電気を使用。価格は車一台分
ところが、南に行けば行くほど、ちゃんとやっている所が多いことが分かりました。
沖縄は高校のとき一人で旅に行ったこともあり、そのときにたまたま工房を見学していて、そのときは別に陶芸をやろうとは思っていませんでしたが、「やろう!」と思ったときに高校生のころを思い出したんです。まあ、沖縄にいれば暖かいし、しばらく宿がなくても外で寝ていればいいかなと思ったんです。行くにも資金もないので、そのときに乗っていたバイクを売って、勤めていた画廊も「焼き物を勉強したいので」ということで辞めました。
沖縄は雨が降っても寒くないし、工房の入り口で三日くらい正座していたら使ってくれるだろうというつもりでいました。
ところが、訪ねていった先ですんなり入れてもらうことができました。散々「運が良かっただけだ」と言われましたね。前の週に弟子が一人辞めてしまって、ちょうど手が足りなくなっていたんです。ですから、普段は「弟子にしてください」と言われてすぐに受け入れられるわけではなく、困っていたところに電話がかかってきたので受け入れられたんですね。本当に運が良かったんです。
●青森の画廊にお勤めだったのですか?
大嶋 いえ、東京の青山にある新生堂という画廊に勤めていました。そこでいろいろな作家さんと話す機会もあって、やはり作品を紹介する側より、作品を作る側の方になりたいと思って、このときに焼き物の修行をしようと改めて決意しました。
そのときにいろいろ話をしてくださった先生方が、名のある人たちだったので、とても勉強になりました。
●その先生方は陶芸家だったのですか?
大嶋 いえ、絵だったり木彫だったり、陶芸家の先生はいませんでした。木彫の薮内佐斗司先生や日本画の千住博先生など、著名な先生方でした。
●芸術がお好きだったのですね。
大嶋 そうですね。男三人兄弟で父親が一般の大学なんですが、母親が美大を出ているんです。それを意識したことはありませんでしたが、長男も美大に行って、次男は建築デザインの勉強をして、私も美大に行き、全員母親の後ろに付いたということになります。
●お父さんは直接ご商売にはかかわらなかったのですね。
大嶋 はい。祖母が店を立ち上げて、嫁いできた母が二代目で、女・女と続けてやってきました。
●そして今度はご自身が三代目ですね。
大嶋 長男は美大でしたけど、現在の仕事は父親の仕事と似たことをしています。グラフィックデザインとかパソコンを使う仕事です。次男は建築関係の仕事で、「残って何をやっているか分らない自分が・・・」ということになりました(笑)。
焼き物で独立しても、作品を紹介する場所を探さなくてはなりません。それを考えたら、作った物を置く場所はあるなと思い、後を継ぐかどうかはさておき、店を手伝うことにしました。焼き物での独立は青森に帰ってからと思っていましたが、店とは別の場所で作陶して店で紹介することを考えていました。
今、青森には中心市街地活性化法の認定で、中心街で新しい事業を始める場合には援助してくれる条例があるんです。それに申請したら通ったので、ここで仕事を始めました。
自身が作った湯飲みと、スープカップ
インテリアとしてもよい大皿
●作品はコーヒーカップとかお皿とか・・・。
大嶋 雑器類が多いですね。
●売り上げはどうですか。
大嶋 おかげさまで何とか売れています。金額は安いんですが(笑)。
沖縄の焼き物は温度管理の難しい登り窯で焼いているのに価格が安いんです。私は沖縄の親方たちより値段を上げるべきではないと思っているので、厳しいですが頑張っています。一窯分全部売れてもトントンかちょっともうけが出るくらいです。でも、まだ親方を超えていませんので、当分はこの考えで進みたいと思っています。それに安いので購入しやすいのかな、とも思っています。
●まず皆さんに知っていただくことが大切ですね。
大嶋 そうですね。
●陶芸の教室などは・・・。
大嶋 やっています。まだ生徒は少ないのですが・・・。
人に教えたことがないので、いっぺんに来られたらどうしようと思っていましたが、幸いにも少人数からスタートすることができて安心しています。今は一カ月に一人増えるくらいがいいなと思っています。
●こちらの場所で教えていらっしゃるのですか?
大嶋 はい、ここで教えています。去年の7月に窯を入れて、生徒の募集はその後でした。入ってきた人たちも、陶芸は初めてという人ばかりでした。
●生徒さんたちは中年の方たちでしょうか。
大嶋 いえ、若い人たちです。
●それは楽しみですね。
大嶋 最初は年配の人たちが中心になるのかなと思って、マンションなんかに広告チラシをポスティングしたんですが全然反応がありませんでした。ところが、会社勤めの方たちが店頭を見て陶芸に興味を持たれ、どんなことをするのか聞きに来たんです。
説明をしましたら「初めてですけどいいですか」「いいですよ」ということになりました(笑)。若い方はすんなりと入会してくれました。
●作品展を開催するなど、将来が楽しみですね。
大嶋 そうですね。本人たちは嫌がっていますが、できれば作品展などを張り合いにして、作品づくりに励んでもらえればと思っています。
●よそのお店と違う点は、作って販売できることですね。
大嶋 そうです。気軽に注文してほしいですね。大きい秋刀魚とかホッケを、一尾のまま乗せられるような皿が欲しいとか、そんな話を気軽にしてもらいたいですね。注文品だからといって値段が高くなることもありませんし。
●作品を通して主張できる、そんな場所があるのはいいですね。
大嶋 どなたでも気軽に遊びに来られる場所だったらいいなと思っています。まだ店の形が整っていませんが(笑)。
主力商品は青森の民芸品
●仕入れは全国各地からですか?
大嶋 焼き物に関してはそうです。干支なども各地から集めますが、そのほかはすべて青森のものです。
●あけび蔓細工は、手に入れるまで、何年もかかると聞いたことがありますが・・・。
大嶋 あけび蔓細工はもともと農家の人が農閑期の冬の間に作ったものでした。最近は人気が出てきて、専門の職人もいます。あけび蔓細工と同様に人気が出てきたものに、ブナコ漆器というものがあります。これはぶなの木を細くベルト状にしたものをグルグルに巻いて、それを成形して漆を塗って器にします。ブナコ漆器もあけび蔓細工も、青森より県外で評価が高まっているようです。
あけび蔓細工も東京に限らず九州あたりでも人気が出て、ウチでお願いしている工房もあちこち引っ張られて、青森より東京の方が品揃えも豊富なほどです。今はなかなか地元の店には品物が回ってこない状態です。
●あけび蔓細工もお値段は高いですね。
大嶋 それほど高いということはありません。
あけび蔓細工よりさらに高価な、くるみ蔓細工(奥)、ぶどう蔓細工
●消費者は熱しやすく冷めやすい部分もありますので、地元が底力を蓄えるといいですね。
大嶋 やはり、地元に自分たちの作品があった上で、全国に広がってほしいなと思います。
●作家さんとの契約で仕入れをされるのですか?
大嶋 そうです。直接やりとりしています。決まったところから品物が入ってきますが、たまに扱ってもらえないかという話もきます。長くお付き合いしているところとは信頼関係がありますので、商品がかぶらなけば扱うようにしています。
●民芸品の後継者は心配ないのでしょうか?
大嶋 この時代、跡継ぎは心配ですね。あけびに関しては若い人たちが活躍していますが、特に津軽塗りの若い人たちは以前ほどはいなくなりました。
金魚ねぶたも昔ながらの材料で、昔ながらの技法でというわけにはいかなくなりました。針金やビニールなどで作られているので、ウチでは扱いたい商品ではありません。
商品の動きも時代と共に
●商品の動きと景気の関係は見られますか。
大嶋 一番変わったのは景気の影響と言うより時代の変化ですね。
たとえば引き出物に津軽塗りは使われなくなりました。また、今までですと、結婚をするとお盆なども用意しましたが、今はもうお盆を使う生活ではなくなっています。
座卓も同じですね。漆器類の出番が少なくなりました。漆器類では汁碗の需要はあります。日本人ですから味噌汁を飲むので売れています。今は木製のお碗をお求めの方が多いですね。
●木製のお碗は高価ですね。
大嶋 一つが8000円弱です。特上のものでは一万円以上の商品もあります。しかし、電子レンジの時代ですから、器もレンジ用のものに移っているようです。
●今後は民芸品をどのような方向に伸ばしたいとお考えですか?
大嶋 津軽塗りは手間もかかっていて上質な商品ですが、ほかの産地の塗物と比べると認知度が低いような気がします。それに後継者の問題もあります。民芸品を作っている人は、どこの土地に行っても地元の人だけでなく県外の人も多いんです。
地元で生まれた工芸品は、そこで育った人たちの文化や血が入って品物が生まれているはずなので、やはり地元の人の手で作られるのが良いなと思います。当店では、職人が安心して物づくりに励めるような、またその作品が全国に広がるような窓口になりたいと思っています。
ウチで扱っている品物は、素材選びにも制作にも手間がかかっています。どうしても少し高くなってしまいますが、ウチはお土産店ではないので、吟味した品物をできるだけ価格を抑えて皆さんに紹介していきたいと思っています。
●これからも本物にこだわった商売ということですね。
大嶋 伝統を伝え広めていくためには、自分もまた一本筋の通った人間でありたいと思います。
●ところで、青森に焼き物はなかったのですか。
大嶋 ありましたが、100年前に衰退してしまいました。土が取れなくなったのが原因と聞いています。
悪戸焼きが弘前で作られていました。「悪戸」は地名です。昔の悪戸焼きの資料を探したのですが、ほとんどないんです。資料館でも図書館でも調べましたがよく分かりません。
写真は二枚ほど見ましたが、悪戸焼きは個人で所蔵している人がいるらしいので、探して見せてもらえればと思っています。でも、これが難しいです。
●悪戸焼きも青森の民芸品として、ぜひ復活できるといいですね。
大嶋 まず悪戸焼きの研究をして、それからですね。
これからは一階を使って、青森の若い作家たちの情報発信の場にしたいとも考えています。
●本日は民芸品への想いや夢のある焼き物のお話など、長時間ありがとうございました。
津軽塗りの汁碗
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